
東京都交通局と東京メトロが10月末、スマートフォン画面に乗車券を表示して使用するデジタルチケット「東京デジタルパス」の技術検証を、路面電車の都電荒川線で実施した。
60人の一般モニターが「東京メトロ・都営地下鉄共通一日乗車券」(磁気カード)などに書かれた有効期限を専用アプリで読み取り、スマホ画面にデジタルチケットとして表示させる。それを都電荒川線の運転士に示し、乗車するという流れだ。
駅で買うしかない「一日乗車券」
乗車券の将来的なスタイルを探る試みと考えられるが、少しちぐはぐな印象も受けた。
「一日乗車券」には、もともと有効期限がはっきり印字されるからだ。つまり、わざわざスマホ上に表示させなくても、乗車時のチェックは問題ない。一度購入した乗車券をアプリで読み込むのは利用客の二度手間になり、デジタルチケットにするメリットは薄い。
利用客にメリットがあるとすれば、インターネットで乗車券を購入し、その場でデジタルチケットを受け取る場合だろう。それなら旅行前や移動中にあらかじめ買っておき、現地ですぐ使うことができる。
ところが東京は乗車券のネット購入という点で見ると、今一歩、物足りない。
東京では交通系ICカードの「PASMO」や「Suica」にお金をチャージしておけば、乗り継ぎでストレスを感じることはあまりない。モバイルPASMOで定期券の購入はできるし、モバイルSuicaには東海道・山陽新幹線の予約サービスもある。
だが今回の「一日乗車券」でいうと、イベントなどでの限定販売を除けば基本的に駅で買うしかない。デジタルチケットを導入するなら、これを日常的にネットで買えるようにするのが先決ではないか。
地方都市で進む乗車券のデジタル化
ネットでデジタルチケットを購入できる例は、地方や海外にはすでにある。長崎市の路面電車、長崎電気軌道は「…
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土屋武之
鉄道ライター
1965年、大阪府豊中市生まれ。大阪大学で演劇学を専攻し、劇作家・評論家の山崎正和氏に師事。出版社勤務を経て97年に独立し、ライターに。2004年頃から鉄道を専門とし、雑誌「鉄道ジャーナル」のメイン記事などを担当した。東日本大震災で被災した鉄道路線の取材を精力的に行うほか、現在もさまざまな媒体に寄稿している。主な著書に「ここがすごい!東京メトロ」(交通新聞社)、「きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)など。