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3大携帯会社に挑む楽天「新技術で5Gの主役狙う」

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 携帯電話で最大手NTTドコモが、“通話料の値下げ”をのまざるを得なくなった──。

 通信業界に衝撃が走ったのは今年6月。格安スマホ会社の日本通信が、サービスを行う上でドコモに借りていた音声通話回線の利用料が「高すぎる」として、国に利用料の引き下げの判断を仰ぎ、総務省が申請を認める裁定を下したのだ。

 これによって、ドコモは、日本通信以外のMVNO(仮想移動体通信事業者。自前の通話やデータ通信回線を持たない)にも同条件の料金設定をすることになった。ある証券アナリストは「ドコモにとっては年間300億円の減益要因になる」と指摘する。この動きは今後、KDDIやソフトバンクにも波及する見通しだ。

 携帯業界の盟主として君臨してきたドコモは、これまで高いシェアを背景に、強い価格支配力を維持してきた。そのドコモが値下げに応じざるを得ないことは、KDDI、ソフトバンクを含めた3社が市場を独占してきた構造に亀裂が入ったことを意味する。

 総務省の判断は、携帯電話各社による料金プランの値下げを促す契機になる可能性が高い。

 「大手キャリアに対抗できるサービスを提供できる。反転攻勢の態勢が整った」。日本通信の福田尚久社長は7月、黒字化への起爆剤として、低価格のプランを満を持して発表した。5年連続赤字と苦境続きの日本通信にとって、復活への大きな足掛かりとなる。

 同社はMVNOの草分けだ。データ通信回線の利用料は年々低下していたが、通話回線は高止まりしていたため「MVNOは電話を『普通に使う人』にとっては割高だった」(福田氏)。格安スマホへ追い風が吹いている。

「新参者」の攻勢

 もう一つ、携帯大手3社の牙城を脅かす存在が、「国内4社目のキャリア」として携帯市場に参入した楽天モバイルだ。親会社の楽天は通販や金融事業で市場を獲得してきた。

楽天の携帯参入で、大手3社の寡占市場が崩れるか(楽天モバイルの店舗)
楽天の携帯参入で、大手3社の寡占市場が崩れるか(楽天モバイルの店舗)

 携帯利用者の間では、3社寡占で競争が途絶え、料金が高止まりしている業界の「台風の目」になるとの期待が高まっている。

 楽天モバイルの三木谷浩史会長兼最高経営責任者は、第5世代移動通信規格(5G)も含めて「7割は安い」(11月4日のオンライン会見で)と強調した。

 携帯利用者も反応し始めている。11月、都内の楽天モバイル店舗から出てきた20代夫婦は「やっぱり大手3社は高いので、都心に住む人で楽天に乗り換えないのは損だと思う」と口をそろえた。今春、大手から楽天モバイルに乗り換えたことで、月の支払いが1万円前後から2980円(現在キャンペーン中で無料)になることを喜んでいた。

値下げする気ない大手

 総務省は10月27日、携帯電話市場の競争促進を目的にした「アクションプラン(行動計画)」を発表した。計画では、「(携帯の)番号持ち運び制度」(MNP)は来年度から原則無料とし、携帯会社のメールアドレスも乗り換え後に同じものを使えるよう新たな仕組みを検討するとした。

 こうしたテコ入れは、菅義偉首相が総務大臣(当時)就任時の2006年からすでに始まっており、19年の電気通信事業法の改正では端末料金の値引きを上限2万円としたほか、2年縛りの契約について違約金の上限を1000円に制限するなどを義務付けた。

 これを受け、大手3社も動いた。KDDIは「UQモバイル」、ソフトバンクは「ワイモバイル」のサブブランド(低価格帯サービス)で、大容量・低価格をうたう新プランを発表した。

 だが、両社は、サブブランドを値下げしただけで、膨大な数の契約者を抱えるメインブランドの値下げには踏み込んでいない。KDDIの高橋誠社長は、メインブランドである「au」での値下げは「今のところあまり考えていない」と消極的だ。

 メインブランドで値下げしない限り、大手3社の「懐(ふところ)」はあまり痛まない。大手3社の営業利益率は20%前後と高止まっている。

 総務省もメインブランドへのテコ入れとなると切れ味を失い、武田良太総務相は会見でさらなる値下げ拡大までは踏み込まない姿勢をにじませた。

 一方、公正取引委員会は、格安スマホ事業者が大手キャリアに支払うデータ接続料が高すぎないかなど、市場で公正な競争が働いているか調査を始めたと正式に明らかにした。今後、総務省などと連携し事業者間の競争を促す方針だ。

日本は「高すぎる」

 日本の携帯料金は国際的に見ても高い。総務省が6月に発表した「電気通信サービスに係る内外価格差に関する調査」を見ると、日本のスマホの月額料金(MNO)は、世界6都市(東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、デュッセルドルフ、ソウル)の中で高い水準にある。データ容量を月20ギガバイトに限れば、東京は8175円(シェア1位事業者)と6都市の中で最も高い(図2)。

 総務省が参考にする海外の成功事例は、キャリア4社目「Free Mobile」の登場で値下げ競争が起こったフランス。総務省の内外価格差調査でもパリが月額3768円と日本に比べ半値以下だ。日本は大手3社による寡占状態にあり、競争が働いているとは言いがたいのが実態で、総務省は楽天に業界を変える役目を期待する。

 日本通信の福田社長は、「3社はかつて、販売店を通じてシェアを拡大させた。成熟期に入り、コストが圧倒的に高い販売店が負の遺産になった」と指摘する。この販売店改革をしない限り、料金を下げられないという。「経営の本質からすれば端末もネットワーク環境も差別化が図れない中で、(別の分野で)差別化を徹底すべきだった」。

 他方、世界トップレベルの通信環境、トラブルを相談できる店舗が多い大手3社と、海外事業者を比較すべきでないとの議論もある。しかし、携帯キャリア各社の営業利益率は20%前後と、日本の情報通信業の平均7・2%(18年度、経済産業省調べ)に比べても著しく高い。寡占(図3)による超過利潤を得てきた結果だ。

仮想化ネットワークで技術革新

 携帯の料金水準を引き下げるには、日本通信の申し立てを認めた行政判断にみられたような“政策の後押し”に加えて、“技術革新”を取り入れることで事業コストを削減する手法が有効だ。

 楽天が打ち出した大幅な低料金は、後者による戦略だと三木谷氏は強調している。大幅な低料金を実現した理由として、「ソフトウエアであらゆることを制御しており、既存のネットワークに比べて大幅に投資コストが安く、その維持管理も自動化され、コストダウンを利用者に還元する」(11月4日の会見)と説明する。

 カギを握るのは、同社が採用する「完全仮想化ネットワーク」だ。この技術は、無線基地局や交換機などの主要装置で大手通信機器メーカーが供給する専用ハードウエアを使わずに、米インテル社製など汎用(はんよう)のCPU(中央演算処理装置)サーバーを用いて、主にソフトウエアによって通信機能を制御する。設備投資は従来比で4割、ネットワーク運用コストは3割減らすことができるという。「クルマで言えば、ガソリン車から電気自動車に変わるようなこと」(三木谷氏)として、新規参入を契機に携帯電話業界における「ゲームチェンジ」を起こす考えだ。

海外も注目する「仮想化」

 楽天が採用した仮想化ネットワークは、海外からも注目が集まっている。楽天モバイルは9月、スペインの通信大手テレフォニカと5Gネットワーク構築に向けた設計手法の確立で提携したと発表。また、楽天モバイルに対し基地局を納入し、仮想化ネットワークの構築で協業するNECは、10月下旬に英国政府と5Gで協力することで合意した。

 米欧では中国の通信機器最大手ファーウェイ(華為技術)が世界各地で売り込みを掛けている5G通信機器を、安全保障上の理由から排除する動きが広がっており、その代替として日本発の通信インフラへのニーズが台頭している。

 通信や電機業界の事情に詳しい大手金融関係者は、「楽天やNECが推進する5Gの仮想化ネットワークは、日本のインフラ輸出の目玉になる」と予想している。

(柳沢亮・編集部)

(浜田健太郎・編集部)

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