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なぜソニーは好調なのか?「選択と集中」という幻想

中村吉明・専修大学経済学部教授
ソニー本社=東京都港区2019年7月、道永竜命撮影
ソニー本社=東京都港区2019年7月、道永竜命撮影

 コロナ禍や米中貿易摩擦など日本経済を取り巻く環境は日々、劇的に変化しています。日本企業はどこへ向かうべきなのか。国際競争で生き残るため、目指すべき経営戦略や新たなビジネスモデルとは何か。経済産業省で長く産業政策にかかわった専修大学経済学部の中村吉明教授が実例とともに考えます。

巣ごもり需要受け増益

 ソニーが好調だ。コロナ禍での巣ごもり需要の活況を受けて、直近の4~9月期の営業利益は前期比7.1%増の5461億円となり、2021年3月期の最終利益は前期比37.4%増の8000億円になると予測している。

 過去を振り返ると、戦後の高度成長期、日本ではソニーなど総合電機メーカーと自動車メーカーがその成長と雇用を引っ張ってきたが、「バブル崩壊後」の30年間、総合電機メーカーの不調が顕著となっていった。

 特にソニーはトリニトロンテレビ、ウォークマンなど、画期的な製品を世に出し、日本経済の成長を引っ張ってきた実績がある。このため、特にこの30年は世界を席巻する新製品を出せない状況を憂える声も多かった。実際、経営指標も厳しさを増していった。

 そのような中で、近年のソニーの好調をどう考えるか。

 筆者は、古い言葉でいう「多角化」と、新製品というモノではなく「リカーリング(継続課金)モデル」にその復活の理由があると考える。

「集中投資」は正しいか

 経営戦略には「選択と集中」という常道がある。米ゼネラル・エレクトリック(GE)の高名な経営者、ジャック・ウェルチ氏が有名にしたキーワードだ。

 企業は「世界で1位か2位になれる事業だけやるべきだ」というのがウェルチ氏の主張だった。

 しかし、日本企業の多…

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専修大学経済学部教授

 1962年生まれ。87年、通商産業省(現経済産業省)入省。環境指導室長、立地環境整備課長などを経て、2017年から現職。専門は産業論、産業政策論。主な著書に「AIが変えるクルマの未来」(NTT出版)、「これから5年の競争地図」(東洋経済新報社)など。