経済記者「一線リポート」

「終のすみか」から退去も 長生きで狂う人生設計

三上剛輝・毎日新聞経済部記者
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予想外の長生きで人生設計の見直しを迫られる可能性は誰にとってもある=東京都千代田区で2020年5月26日、滝川大貴撮影
予想外の長生きで人生設計の見直しを迫られる可能性は誰にとってもある=東京都千代田区で2020年5月26日、滝川大貴撮影

 「人生100年時代」に向けた課題について取材先と話をしていて、耳を疑うようなことを聞いた。思ったより長生きをして資産が底を突き、入居する高齢者向け施設からの退去を迫られる人が増えているという。施設を「終(つい)のすみか」と決め、自宅を売却して入居した人もいるというから深刻だ。

 「統計データはないが、今後もっと増えていく事例だと認識している」。介護施設の経営コンサルティング会社、スターパートナーズ(東京都)の斎藤直路代表が説明してくれた。施設の種類によって上下はするが介護サービスを受けられる民間の有料老人ホームの場合、入居者は居室の利用料や食費などを合わせて少なくとも年間200万~300万円程度を支払うことになるという。急な医療費への備えも必要だ。

 こういった支出を年金などの収入で賄いきれないと貯蓄を取り崩すことになるが、「想定より入居が長期化し、貯蓄が底を突いてしまう事例が目立つ」という。単純計算では、施設に入居する期間が5年延びると1000万~1500万円もの費用が必要になる。

 入居者は支払えなくなれば路頭に迷ってしまうのか――。そんな疑問を抱いて複数の高齢者向け施設に電話で取材を申し込んだが、繊細な内容だからか一様に口が重い。そんな中、関東地方を中心に有料老人ホームを運営する男性が、匿名を条件につらい経験を明かしてくれた。

 この秋、利用料の支払いに窮した90代後半の入居者に対し、同じ系列で利用料を抑えられる施設への転居を勧めた。その入居者は「ここを死に場所と決めてマイホームも売ったのに」と涙ながらに残れないか訴えたが、最終的には子どもが住む家に移ると決まった。子どもと言っ…

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三上剛輝

毎日新聞経済部記者

 1982年名古屋市生まれ。名古屋大経済学部卒。中部地方の経済紙記者を経て、2009年毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道センターを経て、19年10月から東京経済部。主に保険業界や信託銀行、株価の動向を取材している。