
製造業の「要」として戦後の経済成長を支えたものの、近年は安価な海外製品に押されて廃業するケースが多い鋳物業界。東京・八王子の「栄鋳造所」の4代目経営者、鈴木隆史さん(46)は何度も襲ってくる危機を乗り越え、グローバル展開で会社を飛躍させました。5回にわたって鈴木さんの歩みを追いかける連載の2回目は、家業の継承につきまとう「父と子」の物語です。
私の家業ストーリー<2>
事実上の倒産に追い込まれた栄鋳造所を再生する。そう覚悟を決めたものの、社長としての初仕事は、借金を巡る金融機関との裁判だった。別工場を運営していた親族との争いにも巻き込まれ、「自分の人生を呪うこともあった」。
その時、助けになったのは、副業として経営していたネット通販会社だった。鋳物で作ったオブジェのネット販売は軌道に乗らなかったものの、そこで身につけたノウハウを基に会社のホームページを開設すると、父敏雄さんが導入した最新設備「Vプロ」の技術が医療機器や半導体のメーカーの目に留まり、受注が舞い込むようになった。
当時、鋳物業界は金型の原型をつくる木型、金型を作る鋳造、仕上げを行う加工を分業で行うのが当たり前だった。これをワンストップで手掛けようと考え、3D対応の設計システムを導入。当時は新婚だったが、システムの操作をマスターしようと徹夜を続けた。その結果、事業の拡大に成功。一時は3人にまで減った従業員を20人超に増やせた。
「後継者塾に行け」に反発
2007年、社長になって7年が経過していた。「ようやくオレの…
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清水憲司
毎日新聞経済部副部長(前ワシントン特派員)
1975年、宮城県生まれ。高校時代まで長野県で過ごし、東京大学文学部を卒業後、99年毎日新聞社に入社。前橋支局を経て、東京経済部で流通・商社、金融庁、財務省、日銀、エネルギー・東京電力などを担当した。2014~18年には北米総局(ワシントン)で、米国経済や企業動向のほか、通商問題などオバマ、トランプ両政権の経済政策を取材した。