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部下の悩みに共に苦しむ30代女性上司の「共感疲労」

舟木彩乃・産業心理コンサルタント・カウンセラー
 
 

 飯田さん(仮名、女性、30代前半)は、IT企業のウェブデザインチーム(8人)のリーダーです。後輩の面倒見が良くウェブデザイナーとしても優秀なので、4月にチームリーダーに抜てきされました。

テレワークで部下の面談を増やす

 彼女は感受性豊かで優しい性格です。コロナ禍でテレワークが中心になると、部下が困っていることはないか把握するためオンラインの個人面談を設定し、相談しやすい環境を作りました。ウェブデザインはテレワークでもできるので、部下はコロナ前と変わらず仕事をしていますが、悩みを抱えている人も一部いたようです。

 そのような部下とのオンライン面談は、仕事の話だけでなく、家族の問題や性格に関することにまで及び、心理カウンセリングのようになっていきました。もともと「共感力」が高い飯田さんは、一つ一つの相談を自分のことのように丁寧に聞き、アドバイスをしました。

 しかし、話を聞くうちに、自分も一緒に落ち込んでしまい、なかなか立ち直れないこともありました。部下から頼られてうれしかった半面、疲れも感じていたそうです。

相談に乗り自分も疲れてしまう

 飯田さんのように、他者が苦しんでいる状況に思いを寄せすぎて精神的に疲弊してしまうことを、心理学で「共感疲労」と言います。トラウマ(心的外傷)を負った人々をケアするカウンセラーが、まるで自身もトラウマを負ったかのように不安や不眠を示したことから、研究された概念です。

 筆者は飯田さんから、どの程度まで部下の相談に対応すべきか判断がつかないこと、暗い話で自分も一緒に落ち込んでしまうこと--について相談を受けました。

 相談のなかで「カウンセラーはいろい…

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産業心理コンサルタント・カウンセラー

 筑波大学大学院博士課程修了(ヒューマン・ケア科学博士)。一般企業の人事部などを経て、現在メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー企業)副社長。金融庁職員のメンタルヘルス対策にも従事する。国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、第1種衛生管理者、キャリアコンサルタントなど保有。著書に「『首尾一貫感覚』で心を強くする」(小学館新書)。