ベストセラーを歩く

切なくて前向き「君の膵臓をたべたい」280万部の秘密

重里徹也・文芸評論家、聖徳大教授
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原作小説カバーのパネル前で映画「君の膵臓をたべたい」をPRする浜辺美波さん(左)と北村匠海さん=2017年6月13日、岸川弘明撮影
原作小説カバーのパネル前で映画「君の膵臓をたべたい」をPRする浜辺美波さん(左)と北村匠海さん=2017年6月13日、岸川弘明撮影

 住野よるの長編小説「君の膵臓(すいぞう)をたべたい」(略してキミスイ、双葉文庫)が売れ続けている。2015年に単行本が刊行され、17年には文庫化された。実写映画も、アニメ映画も公開され、累計発行部数は、私の持っている今年8月刊行の文庫41刷の帯には「280万部突破」と記されている。一体、なぜ、こんなに人気を集めるのだろう。

 住野はこの作品でデビュー。関西在住の男性らしい。その後も着実にヒット作を書き続けている。

読書好きで1人が好きな「僕」

 「キミスイ」は男女の高校2年生の関係を描いた物語だ。語り手の「僕」は読書好きで1人でいるのが好きな性格。友達も彼女もおらず、他人とはできるだけ、かかわらない。周囲からは「暗い」と言われている。人間の感情の動きに疎いところがあり、読者は気づいているのに、語り手の「僕」は理解していないという具合に物語が展開することもある。歯がゆい主人公だ。

 相手になるのは、男の子とは対照的にとても明るくて元気で積極的な女の子だ。裕福な家のお嬢さんなのだろうか。よく大声で、うわはっはと楽しそうに笑う。社交的で言葉も歯切れがいい。

 2人が出会って恋愛に陥る話かというと、物語はもう少し複雑だ。実は、女の子は膵臓に重病を抱えており、余命1年ともいわれている。しかし、その事情は家族しか知らない。それなのに、ひょんなことから、その秘密を「僕」が知ってしまう。「僕」はもうあまり持ち時間がない彼女が死ぬまでにしたいことに、次々と付き合わされる。

 焼き肉の食べ放題、スイーツのビュッフェ、福岡市への1泊旅行。活動的な彼女に引っ張られて、あちこちに出かける。そのうちに彼女の病状…

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重里徹也

文芸評論家、聖徳大教授

1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。