
入山章栄・早稲田大大学院教授の連載「未来を拓(ひら)く経営理論」は、世界の経営学の知見をビジネスパーソンが実践できる形で分かりやすく紹介していきます。家業を含む同族企業という経営形態が持つ独特の強さ。今回のキーワードは、イノベーションに不可欠な「長期視点が生み出す未来志向」です。
入山教授の「未来を拓く経営理論」
同族企業の強さを考える上で重要なのが長期視点の経営ができるという点です。
経営者が中長期的な方向性を持ち、それに心から納得できて初めて、会社はその未来に向かって投資ができます。そこが欠けていると、目の前ではなく離れたところにある知の「探索」が行われず、イノベーションが途切れてしまいます。
しかし、日本の上場企業、なかでも非同族企業は社長の任期が短いため、中長期のことは後回しになって、「2、3年でどうにかして利益率を上げよう」と考えがちになってしまいますし、短期利益を求める株主のプレッシャーもあります。そうすると結果的に、目の前にある知を活用する「深化」ばかりになって、遠いところにある知の探索がおろそかになる。そしてイノベーションが生まれなくなるというのが、日本の課題だと考えています。
これに対して同族企業は、前回お話ししたように、株主と経営者の利害が相反する「エージェンシー問題」がない。さらに、同族経営者にとって最も重要なのは「家族の繁栄」です。四半期決算よりも10年、20年、30年先にファミリー(=会社)がハッピーかどうかが大事ですから、勢い経営の視点が「前向き」…
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入山章栄
早稲田大大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
1972年生まれ。慶応大学経済学部卒業。米ピッツバーグ大経営大学院から博士号を取得。2013年に早稲田大大学院准教授。19年から現職。世界の経営学の知見を企業経営者やビジネスパーソンが実践できる形でわかりやすく紹介している。主な著書に「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)など。