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膨張し続ける中国「過剰債務と住宅バブル」の危うさ

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百貨店やショッピングモールが集積する北京市中心部の繁華街「王府井」=1月1日
百貨店やショッピングモールが集積する北京市中心部の繁華街「王府井」=1月1日

 百貨店やショッピングモールが集積する北京市中心部の繁華街「王府井(ワンフーチン)」。年明けの1月1日、日中でも気温0度前後と冷え込んだが、モール内の人気レストランの店頭には行列ができ、セールが始まった衣料品店は買い物客でにぎわっていた。北京では昨年12月中旬、約4カ月ぶりに新型コロナウイルスの市中感染者が確認された。年越しのカウントダウンイベントなどが中止になるなど徐々に警戒感が強まっているが、中心部の人出には大きな変化はない印象だ。

 中国湖北省武漢市の当局が2019年12月末に「市内で多数の肺炎症例が見つかった」と発表してからおよそ1年。新型コロナは瞬く間に世界中へ感染拡大し、今なお終息の気配はない。米国での感染者数は今年1月5日時点で2000万人を超え、世界最多を記録する。英国では従来型より感染力が強い変異種も流行して3度目のロックダウンに追い込まれ、日本でも緊急事態宣言の再発令を決める。ただ、中国では感染者数は昨年2月をピークにその後急激に減少し、10万人未満にとどまっている。

 中国では今、店や建物に入る時には、中国IT大手アリババ集団などのアプリと連動し、スマートフォン所持者に感染の恐れがないか自動判定する「健康コード」の提示を求められる。地下鉄では1車両ごとに同乗する係員が、マスクが鼻からずれている乗客を注意する姿も目立つ。中国が大規模な新型コロナの感染拡大を抑え込めているのは、患者発生地域の強制的な封鎖や大規模なPCR検査の実施に加え、こうした個人レベルにまで至る行動管理が徹底されているためだ。

コロナが早める米国超え

「中華民族の偉大なる復興」に突き進む……(中国共産党の習近平総書記) (Bloomberg)
「中華民族の偉大なる復興」に突き進む……(中国共産党の習近平総書記) (Bloomberg)

 1921年7月に産声を上げた中国共産党。結党100年を迎える今、ここまで新型コロナ対策を徹底するのは、中国共産党の支配を揺るがせないためでもある。強固に見える一党独裁体制だが、新型コロナ禍ではもろさも露呈した。その象徴的な出来事が、ウイルス性肺炎の発生について早期に警鐘を鳴らしたにもかかわらず、公安当局に「デマを流した」として摘発された武漢市の医師、李文亮さんの扱いだ。李さんの処分を巡っては、中国のSNS(交流サイト)で当局への批判が集中した。

 中国指導部への罵詈(ばり)雑言もあふれる中、李さんは昨年2月、自らも新型コロナに感染して死亡。批判の高まりを受けて公安当局は処分の撤回と謝罪に追い込まれ、中国政府は一転して李さんを含め治療に当たった医師らを表彰した。中国共産党は一方で、国民の不満の早期封じ込めに躍起だ。「微信(ウィーチャット)(中国のSNS)で共産党の悪口めいたことを書くと、すぐにアラートが出る」。東京都内に在住する30代の中国人女性はこう不満を漏らす。

 女性によると、こうした警告が何回か続くと、対話アプリのアカウント自体が閉鎖され、サービスが利用できなくなってしまう。中国共産党によるインターネット上の監視のためだ。コロナ禍を境に、街中の監視カメラの設置台数も増え、「自由な空気が薄れていっていると感じる」(前出の中国人女性)という。元中国大使の宮本雄二・宮本アジア研究所代表は「中国では大学進学率が50%を超え、かつてに比べ国民の所得も高くなった。価値観と夢が多様化している。これまでのように、共産党が決めて国民に押しつける手法は、変える必要があるだろう」と指摘する。

 世界最大となる9000万人超の党員を擁する中国共産党。結党100年を記念する行事の情報は漏れ聞こえてこないが、新型コロナ禍の中で「大々的な祝賀イベントは難しいのではないか」との見方が広がる。それでも、主要国がコロナ禍で軒並み足踏みを続ける中、中国経済は独りV字回復の道を歩む。国際通貨基金(IMF)によれば、20年の中国の成長率は主要国・地域で唯一プラス成長(1・9%)となる見込みで、21年も8・2%の高い成長を記録する見通しだ。

 コロナ禍はまた、中国が世界一の経済大国に躍り出る日を近づけたかもしれない。三菱総合研究所の予測によれば、コロナ前でも29年に米中のGDPが逆転する見通しだったが、新型コロナの感染拡大の影響で米国経済が落ち込む一方、中国が国内感染をほぼ抑制できる前提を置けば、28年にも中国が世界一となる。三菱総研はさらに、米国で感染拡大がペースが加速し、経済活動の強い抑制策が取られた場合の「下振れシナリオ」も検討。米国経済の回復ペースがさらに鈍化すれば、米中逆転の時期は27年となる可能性もあるとする(図1)。

 三菱総研の橋本択摩主任研究員は「中国政府は発展の遅れた内陸部を引き続き開発し、5G(第5世代通信システム)など新型インフラへの投資も国家主導で進めていくことが寄与する」と分析する。00年の世界貿易機関(WTO)加盟を契機に、2ケタの高成長を続けた中国。08年のリーマン・ショック後には、4兆元(当時のレートで約57兆円)もの経済対策で世界経済を支え、世界2位だった日本のGDPをあっさりと抜き去った。そして今、米国を射程に捉え、「中華民族の偉大なる復興」(習近平総書記)へと突き進む。

 だが、中国経済の足元は、過剰債務という危うさも抱える。日本総合研究所によれば、コマーシャルペーパー(CP)など短期債券を含む社債のデフォルト(債務不履行)の件数は、20年も211件と高水準。特に、国有企業はこのうち77件と前年の4倍超に急増し(図2)、独自動車大手BMWの合弁相手である華晨(かしん)汽車集団や、習近平氏の母校である清華大学発祥の半導体メーカーの紫光集団、石炭大手の永煤(えいばい)集団など有力企業も含まれる。

深刻な住宅市場過熱

 中国の国有企業はもともと、「暗黙の政府保証」を背景に身の丈以上に債務を拡大していたが、日本総研の関辰一主任研究員は「政府による国有企業への保護が弱まった結果だ。今後もデフォルトが相次げば、中国景気の下押し要因になりかねない」と指摘する。ピクテ投信投資顧問の梅沢利文ストラテジストは「永煤集団は格付けが最上級の『AAA』にもかかわらずデフォルトし、国有企業や格付けに対する不安が巻き起こった。共産党が100年を迎える大切な年を前に、増え過ぎた債務を削減する狙いなのでは」と語る。

 住宅市場の過熱も深刻だ。米ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授らは昨年8月、全米経済研究所のリポートで、17年時点の中国全体の住宅の市場価値が米国の倍に達し、日本のバブル期をほうふつとさせると指摘。18年時点の住宅価格の年収に対する倍率は北京で45倍超、上海で40倍超と、ロンドンの20倍超など主要都市を上回る一方、空き家率も上昇しているとして価格高騰に警鐘を鳴らす。だが、中国の英字新聞『上海日報』は今年1月、「20年12月の上海市の新規住宅の供給量は前月比6割増」と報じるように、熱が収まる気配はない。

 膨張を続ける赤い巨星。中国共産党がそのかじ取りを誤れば、世界に類を見ない影響を及ぼす。中国自身も、そして世界も、一党独裁の呪縛から逃れるすべは見当たらない。

(神崎修一・編集部)

(桑子かつ代・編集部)

(小倉祥徳・毎日新聞中国総局)

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