
「店をたたみました。まだ納得がいっていないし、こんな報告をすることになって残念です」。なぜか、毎年やりとりする年賀状ではなく封書が届いた正月。恐れていたことが現実になった。
なじみの小料理屋が……
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、北海道報道部時代に通っていた飲食店が昨年末に閉店した。大皿の煮物や副菜、干物などが常時7、8種類並び、好きなものを少量ずつよそってもらう小料理屋だ。私にとっては、滋味豊かな料理で気持ちを立て直す場所。札幌一の繁華街ススキノにありながら、こぢんまりとした温かいこの店が大好きだった。
観光客や大人数の宴会頼みの店ではないので、コロナが北海道で猛威を振るった時も、当初は客足の大きな落ち込みを感じていなかったそうだ。それでも常連客が一人、二人と姿を見せなくなり、じわじわと経営環境が悪化。感染者が急増した秋以降、客がゼロという日も続くようになり、誰にも食べられない料理を丸ごと捨てることに耐えられなくなったという。
店主が「納得いかない」という思いをまとめると、「ウイルスの存在はどうしようもないが、感染対策は店任せ、営業時間の短縮を実質強制しても補償は最小限。不要不急の外出を控えてと言いつつ、GoToキャンペーンで外食や旅行を勧め、感染者が増えたら犯人扱い。この冬を乗り切ればまだ頑張れるかもしれないが、気力をそがれた。場当たり的な対応に振り回され、結局割を食うのは店」との趣旨だった。
駆けつけられない無力感
移動が制限される中、「あの店はどうなっただろう」と、もどかしい思いを抱える人は私だけではないだろう。手紙はコロナの収束と互いの健康と再会を願い、激…
この記事は有料記事です。
残り1635文字(全文2331文字)
藤渕志保
毎日新聞経済部記者
1991年神奈川県生まれ。2014年に入社し、甲府支局、北海道報道部を経て、18年4月から東京経済部。流通・サービス分野や生命保険・損害保険業界、財務省主税局などを取材。20年4月からは農林水産省と経済産業省、エネルギー業界を担当している。