ベストセラーを歩く

芥川賞「推し、燃ゆ」女子高生が“のめり込んだ”日々

重里徹也・文芸評論家、聖徳大教授
  • 文字
  • 印刷
「推し、燃ゆ」で芥川賞に選ばれた宇佐見りんさん=東京都千代田区で2021年1月20日、須藤唯哉撮影
「推し、燃ゆ」で芥川賞に選ばれた宇佐見りんさん=東京都千代田区で2021年1月20日、須藤唯哉撮影

 「推し」という言葉を初めて聞いたのはいつのことだったか。ネットなどで調べると、もともとは「推しメン」の略で、「アイドルグループの中で最も応援しているメンバー」という意味だったという。AKB48が台頭してきた時に広がった表現らしい。ということは2008年か09年ごろだろうか。確かに同時代を生きてきて納得がいく。派手に「選抜総選挙」が繰り広げられたのは記憶に新しい。

 それが転じて、今や「最も評価したい、推薦したい、気に入っている人や物」という意味に使われている。大学の新入生たちに自己紹介をしてもらうのに、「推しの話でもいいよ」というのだ。推しの対象は広い。歌手や俳優はもちろん、芸人、プロレスラー、小説家、球団、ひいてはゲームのキャラクターにまで使う。

 アイドルやスター、ファンといった言葉とは違って、「推す」という動詞からきているので、主体的なニュアンスを感じる。「誰が何といおうと、私は推すのだ」という感じなのだ。好みにも、生き方にも、多様性を認める世の動きを感じるといえば、いい過ぎだろうか。

デビュー作品で三島由紀夫賞を最年少受賞

 芥川賞を受賞した宇佐見りん「推し、燃ゆ」(河出書房新社)が人気を集めている。21歳というのは、綿矢りさと金原ひとみに次いで、史上3番目の若さだ。芥川賞はしばしば、若い書き手を突然、日本文学の最前線に登場させて、文学史を更新する役割を演じる。今回もそうなのだろうか。

 宇佐見は静岡県生まれ。神奈川県在住。現在、大学の国文科2年生。大学は公表していない。文芸記者に尋ねたが、確認できなかった。近年、卒業生が芥川賞を受賞するとなりふり構わず宣伝に使う大学が多い…

この記事は有料記事です。

残り844文字(全文1542文字)

重里徹也

文芸評論家、聖徳大教授

1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。