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働きやすい会社にある「首尾一貫感覚」とは何か

舟木彩乃・産業心理コンサルタント・カウンセラー
 
 

 吉田さん(仮名、30代前半男性)は半年前、ソフトウエア開発を手がけるIT企業(社員約40人)にSE(システムエンジニア)として転職しました。

 SEとして経験不足な面はありましたが、社長(40代後半男性)から「うちの会社で技術を磨いてくれればいい」と言われ、会社のスローガンに「人材育成」を掲げていたことから、社員を大切にする会社だと思い、入社を決めました。

社長に直談判したら……

 しかし入ってみると、会社は人の出入りが激しく常に人手不足で、全員が自分の担当を超えていろいろな役割を果たさないと仕事が回らない状態でした。吉田さんはクレーム処理や営業の仕事も多く任され、SEのスキルアップにつながる仕事にほとんど携われませんでした。他の社員も残業が続き疲弊しているようです。

 このままでは技術を身につけるどころか体がもたないと感じた吉田さんは、上司のAさん(40代半ば男性)に相談しましたが、「社長の考え方次第だから直談判したらどうか」という答えでした。

 思い切って社長に相談し、「SEの仕事の機会を得られないこと、スキルアップのために勉強をしたくても残業が多く物理的に難しいこと」を話すと、「SEとして入社させたが君は期待に応えられていない」と厳しく言われてしまいました。さらには「余計なことを考えないで目の前にある仕事をこなせばいいんだ」と怒鳴られ、吉田さんはこの会社で頑張っても報われないのではと思い、ガッカリしたそうです。

目標や基準は共有されているか

 社員がすぐに辞めたり、働きにくいと感じたりする会社は、社員の「首尾一貫感覚」(SOC=Sense of Coherence)を高めるこ…

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産業心理コンサルタント・カウンセラー

 筑波大学大学院博士課程修了(ヒューマン・ケア科学博士)。一般企業の人事部などを経て、現在メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー企業)副社長。金融庁職員のメンタルヘルス対策にも従事する。国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、第1種衛生管理者、キャリアコンサルタントなど保有。著書に「『首尾一貫感覚』で心を強くする」(小学館新書)。