毎日家業×創業ラボ

番頭に「おやじ」起用!トヨタ社長の情緒力

入山章栄・早稲田大大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
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レースを終えて互いに健闘をたたえ合うトヨタ自動車の豊田章男副社長(当時・中央)らドライバー=独ニュルブルクリンクで2009年5月、米川直己撮影
レースを終えて互いに健闘をたたえ合うトヨタ自動車の豊田章男副社長(当時・中央)らドライバー=独ニュルブルクリンクで2009年5月、米川直己撮影

 入山章栄・早稲田大大学院教授の連載「未来を拓(ひら)く経営理論」は、世界の経営学の知見をビジネスパーソンが実践できる形で分かりやすく紹介していきます。前回に続き、世界有数規模のファミリービジネス(家業的経営)、トヨタ自動車について解説します。

未来を拓く経営理論

 前回は、変化の時代にあって、トヨタ自動車の社長が創業家3代目の豊田章男さんであることを「奇跡」のようだと論じました。感情面・精神面で圧倒的な求心力を保持することで、大胆な決断が可能になるからです。

 章男さんは、人事面でも情緒的なアプローチを忘れていない印象です。例えば2017年に、それまで長い間、同社の製造現場を束ねてきた河合満さんを、副社長に据えました(現在はエグゼクティブ・フェロー)。河合さんは、トヨタで初めて現場たたき上げで役員になった方で、名刺の肩書は「おやじ」と記載されているような方です。

「夢」と「ストーリー」生む人事術

 ファミリービジネス(家業的経営)では、トップに物申せる番頭さんの存在も重要です。河合さんは、章男さんにとって番頭の一人でしたが、いわゆる大学出のピカピカのエリートではなく、現場たたき上げの方です。

 そのような方を副社長に据えたところに意味があります。例えば製造現場からすると、一緒に汗水垂らした人物が副社長になったという「夢」と「ストーリー」が生まれて、現場の士気は一気に上がるはずです。このような大胆な人事も、ある意味で創業家だからこそできることと言えるかも知れません。

 もう一つ、私がト…

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入山章栄

早稲田大大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授

 1972年生まれ。慶応大学経済学部卒業。米ピッツバーグ大経営大学院から博士号を取得。2013年に早稲田大大学院准教授。19年から現職。世界の経営学の知見を企業経営者やビジネスパーソンが実践できる形でわかりやすく紹介している。主な著書に「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)など。