
世の中のデジタル化の進捗(しんちょく)により、鉄道の世界でも「紙」の役割は大幅に小さくなっている。駅で無料配布され、かつては多くの人がパスケースなどに入れていた「ポケット時刻表」も、最近はすっかり影が薄くなった。
ポケット時刻表は、駅の1日の列車の出発時刻を記載し、折りたたみ式や冊子型にして手軽に持ち運べるようにしたものだ。
この無料のポケット時刻表。3月のダイヤ改正などを機に、配布を終了した鉄道会社がいくつもあることはあまり知られていない。
以前は重要性が高かったアイテムゆえ、小田急電鉄などは駅に大きなポスターを掲示し、配布終了を告知した。このほか京阪電鉄や阪急電鉄、JR九州が配布を全面的に中止。JR西日本の岡山支社やJR東日本の水戸支社などでも配布を終了した。
コロナ禍も影響?
理由は言うまでもなくスマートフォンの普及だ。今や各社とも、列車の発車時刻表は自社のウェブサイトでも掲載している。駅に掲示している時刻表にもQRコードを添付し、他の駅の時刻表なども読み取れるようにしている例は多い。
また、「駅すぱあと」や「ジョルダン」といった総合ナビゲーションサイトの登場で、一つの鉄道会社にとらわれず発着時刻を調べられるようになり、バス、徒歩なども組み合わせた経路の検索が可能となった。最安経路、最短経路の割り出しや、到着予定時刻から逆算しての列車検索など、さまざまな使い方が可能で、公共交通機関の利便性向上に大いに役立っている。
このように紙の時刻表への需要が小さくなっていたところへ、新型コロナウイルス感染症の流行が襲った。利用客の大幅な減少で鉄道各社は厳しい経営が続いており、ポケ…
この記事は有料記事です。
残り848文字(全文1546文字)
土屋武之
鉄道ライター
1965年、大阪府豊中市生まれ。大阪大学で演劇学を専攻し、劇作家・評論家の山崎正和氏に師事。出版社勤務を経て97年に独立し、ライターに。2004年頃から鉄道を専門とし、雑誌「鉄道ジャーナル」のメイン記事などを担当した。東日本大震災で被災した鉄道路線の取材を精力的に行うほか、現在もさまざまな媒体に寄稿している。主な著書に「ここがすごい!東京メトロ」(交通新聞社)、「きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)など。