
石田さん(仮名、30代半ば男性)は、損害保険会社の法人営業部1課(約20人)に所属しています。法人営業部は、新入社員が配属されると、最初の4カ月間、先輩社員が1対1で付いてOJT(職場の仕事を通じた訓練)を行い、その期間に先輩社員は、顧客の一部を新人に引き継ぐことになっています。
石田さんは、新入社員のAさん(20代前半女性)のOJTを担当しました。Aさんは明るく外向的な性格で営業向きだと思う半面、服装や化粧が派手で、顧客から受け入れてもらえるかが気になりました。
心理学の「単純接触効果」とは
Aさんの服装はたいてい、胸元が大きく開いたブラウスを着て、靴はかかとの高いピンヒールで、化粧は派手めです。靴に関しては「そういうヒールだと疲れるから……」と、石田さんは遠回しに伝えましたが、「私の足をそんなに見ないでください」と冗談交じりに言われ、身なりについてはそれ以降、触れないようにしたそうです。
結局、OJTでは、服装などの注意はそれ以降しませんでしたが、石田さんは、Aさんに引き継ぐ企業には、彼女の明るいところなど良い面を分かってもらおうと2人で何度も足を運んだそうです。
心理学には、アメリカの心理学者ロバート・ザイアンス(1923~2008年)が提示した「単純接触効果」と呼ばれているものがあります。よく会う人や何度も聴く音楽に対し、次第に好意が高まるという現象を指します。謙虚な人柄とマメな訪問で顧客から信頼を得ている石田さんは、自分で意識していたかどうかは分かりませんが、「単純接触効果」を生むような営業活動をしていました。
石田さんは、いつもお世話になっている顧客に、連絡をメ…
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