石角友愛のシリコンバレー通信

経験ゼロ、文系でも「AI人材」になる方法とは

石角友愛・パロアルトインサイトCEO
  • 文字
  • 印刷
日本では人工知能(AI)を活用するための人材が不足している
日本では人工知能(AI)を活用するための人材が不足している

 3月に「“経験ゼロ”から始めるAI時代の新キャリアデザイン」という本をKADOKAWAから出版した。新型コロナウイルス感染拡大で加速するデジタル化や人工知能(AI)の浸透に伴い、これからますます需要が高まる「AI人材」となることで、キャリアデザインの幅を広げたいビジネスパーソンなどに向けた本だ。

 本著では、タイトルの通り「経験ゼロ」でも、IT業界に縁がなくても、AI人材としてキャリアデザインを行う道が実はたくさんあるのだということがメッセージの一つになっている。

進路に悩む大学生の言葉がきっかけ

 この本を執筆しようと思ったきっかけは1年ほど前、あるセミナーで講演したときに名刺交換をした女性の言葉が忘れられなかったからだ。

 「企業経営者に対して行うAI活用ビジネスセミナー」と題した講演会に、20代前半くらいの女性が一人で参加していた。熱心にメモを取り、質疑応答でも積極的に挙手する人で、終了後に私に話しかけてきた。

石角友愛さんが出版した「“経験ゼロ”から始めるAI時代の新キャリアデザイン」(KADOKAWA)=2021年4月13日、柳原美砂子撮影
石角友愛さんが出版した「“経験ゼロ”から始めるAI時代の新キャリアデザイン」(KADOKAWA)=2021年4月13日、柳原美砂子撮影

 話を聞くと、日本の大学の3年生で、データとマーケティングを組み合わせてビジネス応用を考えるゼミに所属しているという。ゼミでは、ビッグデータの解析やAI実装を担うデータサイエンティストやソフトエンジニアと実際に協業しており、女性はデータ活用の新たな価値を作り出し、関係者と意思疎通を図る役割を担っているらしい。

 「私はデータサイエンティストやエンジニアになりたいわけではない。けれど、AIビジネスの中で活躍したいという思いがある。自分には何ができるかと考えたときに、何も選択肢がないのではないかと思い悩んでいました」。女性は私の講演会に参加した理由をこう話した。

 そして、「石角さんが講演で、企業とデータサイエンティストを結び、ビジネスの価値を創造する『AIビジネスデザイナー』の重要な役割について話してくれて、私もそのような仕事がしたいと思いました」と語ってくれた。

「理系ではないから関係ない」?

 「AIビジネスデザイナー」とは私自身の職種でもあるのだが、AI開発を手がけるIT企業や部署で、AIを活用して顧客の課題を解決するプロジェクトを指揮する仕事だ。

 自分でプログラミングなどはできなくてもいいが、AIの概念をしっかり理解したうえで経営戦略やビジネスモデルを練る力や、顧客にとって必要なAIをそれを開発する技術者と顧客の双方に伝えていくコミュニケーション能力が問われる。

 日本では、エンジニアやデータサイエンティストは徐々に育成が進んでいるが、AIビジネスデザイナーのような人材は圧倒的に足りないのが実情だ。

 私は講演会で出会った女性と話した後、この女性のような人は潜在的にたくさんいるのではないかと思った。すなわち、政府や企業、マスコミなどによって連日、AI人材の重要性が叫ばれている中で、「自分は理系ではないし、関係のない話だろう」と取り残されたような気持ちになっている人たちだ。

今いる職場でAI人材になれる

 そこで今回、「AI時代」が到来したとも言われる今の社会において、コミュニケーション力や構想設計力を駆使して技術者と企業担当者をつなぎ、プロジェクトを成功に導く役割を果たす人材の重要性について、客観的に考察、取材して本にまとめた。

 私はこういった役割を果たす人たちのことを「AIシナジスト」と呼んでいる。突然、データサイエンティストなどの専門職へ転職するのではなく、「今いる職場でAIを活用し、業務でのシナジー(相乗効果)を生み出す人」という意味だ。「経験ゼロ」でも、理系でなくてもAI人材になりたいという人に、まず考えてみてほしい仕事だ。

今いる職場で人工知能(AI)を活用し、業務での相乗効果を生み出す道もある
今いる職場で人工知能(AI)を活用し、業務での相乗効果を生み出す道もある

 「人事×AI」「マーケティング×AI」「営業×AI」といった掛け合わせを考え、各事業部でAIを活用することで、従来のやり方を踏襲していては考えられないような実績を上げられるケースは多い。さまざまな企業がAI導入を進める中、事業部ごとにAIシナジストと呼べる人がいるかどうかが重要な鍵となる。

「知識ゼロ」からスタート

 本著では、実際に自分のいる部署でこれまで培ってきた知識や経験にAIを掛け合わせ、社内のAI導入プロジェクトを主導してキャリアアップを果たした30代の男性や、子会社出向中にAIによって製造工程を効率化した50代のベテラン経理マンらを取り上げた。今や有能なAIシナジストである彼らも、もともとは「AIの知識ゼロ」からスタートしている。

石角友愛さんの新著には人工知能(AI)を活用して製造工程を効率化したベテラン経理マンの事例も登場する
石角友愛さんの新著には人工知能(AI)を活用して製造工程を効率化したベテラン経理マンの事例も登場する

 実際に本を読んだ方からは「文系の自分に未来がある気がした」「本当に『経験ゼロ』でも努力次第でAI人材になれるのだという希望を持つことができた」という感想をいただいた。

 今後、エンジニアやデータサイエンティスト以外のAI人材の重要性が、日本でより活発に議論されることに一役買う本になればと願っている。

      ◇    ◇

 米シリコンバレーに拠点を置き、日本企業などに人工知能(AI)導入を提案するパロアルトインサイトの最高経営責任者(CEO)、石角友愛さんが、IT業界の最新情勢やシリコンバレーでの生活で感じたことを現地からつづります。「石角友愛のシリコンバレー通信」は原則毎月掲載します。

石角友愛

パロアルトインサイトCEO

 2010年にハーバードビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得後、米グーグル本社でシニアストラテジストとして、多数のAIプロジェクトを手がける。グーグル退社後、人事系スタートアップや流通系AIベンチャーを経て、2017年に日本企業にAI開発を行うパロアルトインサイトを起業。著書に「いまこそ知りたいAIビジネス」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。