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「社長解任」?父親から突然届いた非情な通告

清水憲司・毎日新聞経済部副部長(前ワシントン特派員)
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小高集さん=東京都墨田区で、大西岳彦撮影
小高集さん=東京都墨田区で、大西岳彦撮影

 東京・墨田の小高莫大小(メリヤス)工業社長の小高集(つどい)さん(48)は、それまで敬遠していたデザイン会社との協業に踏み切り、北欧風のカラフルな布草履「メリ(MERI)」の製造・販売に乗り出しました。「町工場とデザイン」のコラボレーションで生まれたメリ。各地で引っ張りだこの人気商品になりますが、小高さんの足元を揺るがす事件が起こります。

私の家業ストーリー<2>小高集さん

 顧客ニーズではなく、自社の論理で商品開発してしまう「プロダクトアウト」からの脱却を果たした小高莫大小。次の課題は、布草履を編む職人さんの確保だった。

 1足を編むのに3時間。売りに出せる商品を編めるようになるには、1年近くの修業が必要だから、アルバイトを募集して何とかなる話ではなかった。知人へのプレゼントや趣味として編みたい人は多かったが、仕事としてコンスタントに編んでくれる職人さんを探すのは難しかった。

 そこで、東京・墨田の両国で布草履のワークショップを開設することを思いついた。そこに参加してくれる人なら、手仕事が好きに違いない。もしかしたら、仕事として布草履を編んでくれるかもしれない。「ワークショップの本当の狙いはスカウト。そうでないと、人材が確保できなかった」。2012年秋、ようやく3人の職人さん候補を見つけることができた。

成田空港に出店!「海外で作るしかない」

 メリのブランディング(ブランド構築)は順調に進んだ。念願だったパリのインテリア雑貨展示会に続き、国内の展示会にも出展。それが国内百貨店各社の目に留まり、次々に取引が決まっていった。

 「ぜひ成田空港に出店してください」。13年2月に東京都内であった雑貨展示会の会場で、突然、大きな提案が舞い込んだ。翌年の空港ビルのリニューアルオープンにあわせて、メリの直営店を出してほしいという。小高莫大小は袖や裾のパーツ品を中心に生産してきた町工場。当然ながら、自前の店を運営したことなんてなかった。

 それでも、二つ返事で出店を決めたのは、「こんなチャンスは二度とない」と考えたからだ。布草履が売れるのは、主に夏場。日本を訪れる外国人観光客に買ってもらえれば、通年で販売できるようになる。そんな場として空港はぴったりだった。

 空港に店舗を開く。約1年半後のオープンに向け、ますます職人さんの確保が急務になった。欠品を出すわけにはいかない。自らを追い込む形になった小高さんは「海外で作るしかない」と思い切った。

 知人のつてを頼ってベトナムに飛んだ。農村では、農作業の合間の内職として籐(とう)細工をする器用な女性が多くいる。なにより、ベトナムにはおしゃれなアジアン雑貨のイメージがあり、メリのブランド構築の邪魔にならないと考えた。開店まで刻一刻と進むカウントダウン。編み方を教えるため、月1回、ベトナムに通う日々が続いた。

父親が決めた臨時株主総会「もしかして…」

 13年は、販売の最盛期にあたる6~8月にかけて、各地で開かれる百貨店の催事に飛び回った。社内の誰かが手伝ってくれるわけでもなく、自ら商品を運搬し、売り場に立った。福岡、大阪、京都、静岡、横浜、そして東京………

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清水憲司

毎日新聞経済部副部長(前ワシントン特派員)

 1975年、宮城県生まれ。高校時代まで長野県で過ごし、東京大学文学部を卒業後、99年毎日新聞社に入社。前橋支局を経て、東京経済部で流通・商社、金融庁、財務省、日銀、エネルギー・東京電力などを担当した。2014~18年には北米総局(ワシントン)で、米国経済や企業動向のほか、通商問題などオバマ、トランプ両政権の経済政策を取材した。