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会社を追われて…「ムリヤリ第二創業」の道のり

清水憲司・毎日新聞経済部副部長(前ワシントン特派員)
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小高集さん=東京都墨田区で、大西岳彦撮影
小高集さん=東京都墨田区で、大西岳彦撮影

 東京・墨田の小高莫大小(メリヤス)工業社長の小高集さん(48)は、北欧風のカラフルな布草履「メリ(MERI)」の販売を順調に伸ばしていきました。ところが、会社を50日間にわたって不在にしたことを理由に、先代社長の父親が小高さんの解任に動きます。

私の家業ストーリー<3>小高集さん

 「クビになるかもしれない」。メリの販売で全国各地の百貨店を飛び回って久しぶりに会社に戻ったその日、父親から渡された「臨時株主総会」の通知を見て直感した。

 少し前から父親との関係はぎくしゃくしていたし、父親を含む株主4人に加え、本来は出席する必要のない社員までも招集されていた。「これはつるし上げの場。茶番だ」とはらわたの煮えくりかえる思いになったが、株式の6割超を握る父親に対抗しても、勝てる見込みはなかった。

 父親は社長職を集さんに譲った後も、なぜ自分の一存で社長解任を決められるだけの株数を手放していなかったのだろうか。はっきりした理由は分からない。自分が大きくした小高莫大小について、集さんが「売り上げが落ちている」と公言していたことに腹を立てていたのかもしれない。

 集さんが手掛けるメリの販売が順調に伸びていることに嫉妬していたのかもしれないし、後妻の将来を案じていたのかもしれない。理由が何であったとしても、自分で後継ぎに据えた息子を解任する――。その手段を残していたのだ。

「もう自営業はやめて」妻の涙

 2013年9月7日の臨時株主総会。予想通り、業績不振を理由に父親から一方的に責められ、社長を解任された。経理として勤めていた妻も同時に解雇が決まった。

 社長として12年間、繊維業界全体に吹く逆風をはね返すために駆けずり回り、「メリ」という新規事業も成功させつつあった。

 それなのに、渡されたのは、積み立てていた退職金300万円だけだった。経営者だったから、失業保険は受けられない。翌月から無収入になることが確定した。

 そんな状態でも、集さんの頭の中を埋め尽くしていたのは、翌年、成田空港にオープンするメリ直営店のことだった。空港会社や取引のあった百貨店との契約は、小高莫大小の名義だったから、とにかく早く新しい会社を立ち上げて契約先を新会社に変更するしかなかった。

 退職金300万円は新会社の資本金に充てると決めた。社長解任前から相談を始めていた税理士や司法書士の助けを借りて準備を急ぎ、かつて通っていた地元の後継者育成塾「フロンティア…

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清水憲司

毎日新聞経済部副部長(前ワシントン特派員)

 1975年、宮城県生まれ。高校時代まで長野県で過ごし、東京大学文学部を卒業後、99年毎日新聞社に入社。前橋支局を経て、東京経済部で流通・商社、金融庁、財務省、日銀、エネルギー・東京電力などを担当した。2014~18年には北米総局(ワシントン)で、米国経済や企業動向のほか、通商問題などオバマ、トランプ両政権の経済政策を取材した。