
AI(人工知能)に心はあるのだろうか。人間とAIを区別するものとは一体、何なのだろうか。私たちはAIとどのようにつき合っていけばいいのだろうか。こういう問いかけを深めていけば、人間とはどういう存在で、何のために生きているのだろうか、という疑問に突き当たるに違いない。
カズオ・イシグロの新作「クララとお日さま」(早川書房)はそんな問いに果敢に挑んだ長編小説だ。この作家らしい不気味で不穏な調子で物語が進み、やがて、大きな感動が待っている。
ノーベル賞受賞後第1作
イシグロは1954年、長崎市生まれ。5歳から英国に暮らしている。数々の魅力的な小説を発表して注目され、2017年にはノーベル文学賞を受賞した。今作は6年ぶりの新作長編で同賞受賞後の第1作になる。3月に世界同時発売され、国境を超えてベストセラーになっている。
主人公はAIを搭載したクララという名前のロボットだ。ショートヘアでフランス人の少女のような姿をしている。旧型なのだが、観察力と学習力に優れている。彼女を語り手にして物語は進む。
つまり、読者は小説世界をクララの視点から見ることになる。この未来社会のありようや登場人物たちの背景も、読者に少しずつしか明らかにされていかず、それが小説全体を謎めいた不安な雰囲気の漂うものにしている。このあたり、過去のイシグロの作品(たとえば、「わたしを離さないで」)を思い出す人もいるだろう。
いくつかの“仕掛け”
クララはショップで購入されて、病弱な少女のAF(人工親友、「アーティフィシャル・フレンド」の略か)になる。クララは献身的に少女に尽くし、少女もクララを慕うようになる。そして、少…
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