
「この辺りの企業には毎月のように接触があるんじゃないか。戦後から連綿と続く古典的な手口なのに、なくならないね」
日本を代表する主要企業が本社を構える東京・丸の内のオフィス街。大手企業の幹部は林立する高層ビルを見渡しながら、こうつぶやいた。
この幹部が言う「手口」とは、俗に「M資金詐欺」と呼ばれるものだ。
連合国軍総司令部(GHQ)が終戦直後、旧日本軍から接収した巨額の秘密資金がある。これをひそかに提供しよう――。こんな口車に乗せて、多額の資金をだまし取る。しかも被害者の多くは、大手企業の幹部など経済人だという。
経済人がなぜ、夢物語のようなストーリーを信じてしまうのか。今もしぶとく生き残るM資金詐欺の実態を追った。
「GHQ」「オイル」「騎士団」…時代とともに変化
M資金という名称は、GHQの「資金を管理していた」という触れ込みの経済科学局長、マーカット少将の頭文字からとったとされる。資金の中身はGHQの秘密資金のほか、「オイルダラー」「十字軍遠征時に結成された『マルタ騎士団』の資金」「日本政府が特定の企業にだけ支出する助成金」など時代に合わせて、さまざまに変化。いつしか多額の資金提供をちらつかせて、手数料などの名目でカネをだまし取る手口の総称をM資金詐欺と呼ぶようになった。
被害者は数知れない。1970年代には大手航空会社の社長が3000億円のM資金融資に絡む念書を作成したことが表面化し、辞任に追い込まれた。直近でも外食大手「コロワイド」会長が30億円超をだまし取られたことが明らかになり、事件化している。
だが、疑問が浮かぶ。定期的に詐欺事件が報じられてきたM資金を、どうして多くの人が、しかも経済に精通しているはずの企業経営者や大手企業幹部が信じてしまうのか。
「詐欺師は相手を信じ込ませる巧妙なわなをちりばめている。実際に会って話をしてしまうと、うまく丸め込まれてしま…
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赤間清広
毎日新聞経済部記者
1974年、仙台市生まれ。宮城県の地元紙記者を経て2004年に毎日新聞社に入社。気仙沼通信部、仙台支局を経て06年から東京本社経済部。16年4月に中国総局(北京)特派員となり、20年秋に帰国。現在は霞が関を拠点に、面白い経済ニュースを発掘中。新著に「中国 異形のハイテク国家」(毎日新聞出版)