経済記者「一線リポート」

コーヒー鬼滅缶は“もろ刃の剣”飲料業界の光と影

井口彩・大阪本社経済部記者
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「鬼滅の刃」とコラボした「ダイドーブレンドコーヒーオリジナル」(左)と「絶品カフェオレ」=Ⓒ吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
「鬼滅の刃」とコラボした「ダイドーブレンドコーヒーオリジナル」(左)と「絶品カフェオレ」=Ⓒ吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 2020年の飲料業界を騒がせた商品があった。人気アニメ「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」のキャラクターをラベルにあしらった缶コーヒー、通称「鬼滅缶」。1億本を売り上げる大ヒットとなった。実は、アニメキャラクターとコラボした缶コーヒーはここ2年で他社も相次いで販売し、ブームを巻き起こしている。ただ、業界関係者は「コラボ缶は『もろ刃の剣』で負の側面もある」と警告。売れていればいいと思うが、何が問題なのか。そして続編はあるのか。販売元の社長に直撃して聞いてみた。【毎日新聞大阪経済部・井口彩】

 20年秋のこと。「あ、ここでも売り切れている!」。新潟支局で勤務していた記者は、新潟市郊外で車を運転中、ふと自動販売機を見て驚いた。ジュースやお茶がずらりと並ぶ中、見事に「鬼滅缶」だけが売り切れていたのだ。「本当に『社会現象』なんだなあ……」。地方のロードサイドにも広がる鬼滅缶ブームを実感した瞬間だった。

 鬼滅缶は20年10月、清涼飲料大手のダイドードリンコ(大阪市)が発売した。絵柄は全28種類。竈門(かまど)炭治郎や妹の禰豆子(ねずこ)といった主要メンバーから、炭治郎と共に鬼を倒す鬼殺隊の「柱」たち、果ては登場人物が飼うスズメの「チュン太郎」まで、さまざまなキャラクターがラベルに大きく描かれている。自販機にお金を入れてもどの絵柄が出てくるか分からない自販機限定のデザインもあり、ツイッターなどのSNS(ネット交流サービス)が「全絵柄をコンプリートした」「まだ見つからない」とファンの投稿でにぎわう様子もしばしば見かけた。

 当時は意識して見ていなかったが、調べてみると、アニメのキャラクターがラベルを飾るいわゆる「コラボ缶」は他社の缶コーヒーからも登場していた。例えば、アサヒ飲料の「WONDA(ワンダ)」では19年8月に「ルパン三世」▽20年3月に「こちら葛飾区亀有公園前派出所」▽同8月には「進撃の巨人」――とコラボ缶を続々発売した。日本コカ・コーラの「ジョージア」では19年に「機動戦士ガンダム」のコラボ缶を発売。20年には微糖など対象商品を増やして新たなキャンペーンを始めた。

 なぜ、缶コーヒーでコラボ缶が相次ぐのか。4月から大阪本社経済部に異動した記者はその疑問を解消しようと、ダイドードリンコの親会社で、大阪市に本社を置くダイドーグループホールディングス(GHD)の高松富也社長(44)を直撃した。同社の創業者の孫だ。

 「正直、想像以上のヒット。びっくりしたし、うれしかったです」。まずヒットの感想を尋ねると、高松社長から笑みがこぼれた。

4カ月でダイドーの利益2倍に

 鬼滅缶の売り上げは振り出しから絶好調だった。ダイドーによると、発売から約3週間で5000万本超を販売。20年10月の同社のコーヒー飲料の販売本数を前年同月比1・5倍に押し上げた。購入者から「箱買いしてしまった」などの声も寄せられたという。21年3月までに販売1億本に達する大ヒット商品となった。20年はコロナ禍で外出の機会が減り、各飲料メーカーが苦戦。こうした中、ダイドーは、鬼滅缶が発売から約4カ月間の実績しか反映されていないものの、21年1月期の連結営業利益が前期比で約2倍に伸びた。

 高松社長はヒットの理由として、鬼滅の刃そのものが「すごくパワーのあるコンテンツだった」ことに加え、「若い10代や20代、男性に限らず女性、小さい子供からお年寄りまで、本当に幅広い方々が手に取ってくれた」ことを挙げた。これこそが、近年の缶コーヒー業界で課題とされてきたことなのだという。

 一体どういうことなのか。メーカーなどに取材すると、缶コーヒー業界には独特の市場環境があり、その環境においてさまざまな要因で“構造変化”が起きていたことが分かってきた。

 まず、取材した関係者が口をそろえるのは「この市場は一部の『ヘビーユーザー』によって支えられてきた」ということだ。…

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井口彩

大阪本社経済部記者

2017年毎日新聞社入社。新潟支局を経て2021年4月から大阪本社経済部。埼玉県出身。