MaaSが創る都市と地方の近未来

安すぎ?東急「1日100円乗り放題」で見えたこと

森田創・東急MaaS戦略課長、ノンフィクション作家
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東急が新サービス実験「DENTO」の一環として運行した高速バス=東急提供
東急が新サービス実験「DENTO」の一環として運行した高速バス=東急提供

 横浜市青葉区にある東急田園都市線たまプラーザ駅。時刻は平日の午前9時すぎ。

 背広に身を包んだビジネスマンの一団が、改札口を足早に通り過ぎ、階段を下りて南口ロータリーに向かう。「渋谷駅・東京駅」の行き先表示をつけたリムジンバスを見つけると、彼らはスマートフォンの画面を運転手に見せ、車内に乗り込んだ。ゆったりとした座席に身をあずけ、ノートパソコンを立ち上げると、メールを一斉にチェックしはじめる様子は、まるで「動くシェアオフィス」だ。

 彼らが乗り込んだのは、田園都市線郊外と東京都心を結ぶ高速バス。私の勤務する東急が、4月末まで行った新サービス実験「DENTO(デント)」の一環として運行した。

 「DENTO」のテーマは、田園都市線在住の都心通勤者に向けた、新しい移動・就労サービスの提供だ。コロナ禍によるテレワークの浸透は「就労場所を問わない」という自由な働き方を認める企業を増やした。特に田園都市線沿線は大企業の勤務者が多く、テレワーク率も高い。これまで混雑時間帯の電車に乗り込み、定時に本社に出勤していた人たちも、状況に応じて出社、在宅、その他の場所と、日々の就労場所を使い分けるようになった。

 冒頭で紹介した高速バスも、Wi-Fiが完備され、車内で快適に仕事ができる。自由な働き方を認めている企業であれば、車内で仕事した分だけ、オフィスでの執務時間は少なくできるはずだ。高速バスが、たまプラーザ駅を発車するのは午前9時過ぎ。少し遅めに感じられるかもしれないが、バス車内でパソコンを開けた瞬間が、会社で始業時間として認められるならば問題はないわけだ。

 高速バスで渋谷まで40分。料金は通常1000円、東急線の通勤定期を持っていれば900円とした。グリーン車感覚で利用できる価格帯だ。電車より10分強、時間がかかるものの、電車のような「密」を避けつつ、移動時間も快適にパソコン作業ができる点が受け、リピート利用者も多かった。

テレワーク浸透…「安泰」でなくなった定期券収入

 DENTOでは、高速バス以外にも、スポーツジムやカフェなどでテレワークできるサービスに加え、通勤定期を持っている人限定で、さまざまな優遇サービスを提供した。例えば、定期を持っている人なら、横浜市青葉区内の自宅まで相乗りタクシーで帰宅できる。料金は、東京都心(中央区・港区・渋谷区)から3980円均一。通常のタクシーの3分の1前後という安さだ。

 DENTOの中で最も人気を博した商品が、1日100円で電車やバスが乗り放題になるデジタルチケット。約3カ月の実験で2万枚以上を売り上げた。この「100円チケット」は、ネット上で…

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森田創

東急MaaS戦略課長、ノンフィクション作家

 1974年神奈川県生まれ。99年、東京急行電鉄株式会社入社。ミュージカル劇場「東急シアターオーブ」の開業責任者、広報課長を経て、2018年から現職。日本初の観光型MaaS(次世代移動サービス)「Izuko」を伊豆半島で立ち上げた経緯を記した「MaaS戦記」を20年夏に刊行したほか、「洲崎球場のポール際」(第25回ミズノスポーツライター賞最優秀賞)「紀元2600年のテレビドラマ」の著作も。