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半導体「年6%成長に」世界トップ3が巨額投資を加速

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年率6%成長に

 半導体の需要拡大に弾みがついてきた。新型コロナ禍に伴う社会の変化でデジタルトランスフォーメーション(DX)が本格的に進展し始めたことに加え、米中の覇権争いによって半導体が「戦略物資」となった。各国が今後の安定調達に向けて自国内や域内でサプライチェーンを確保しようとする動きが顕在化してきたことで、主要半導体メーカーが次々と大規模な増産計画を具体化させている。これを受けて、今後は半導体製造装置メーカーや生産に不可欠な部材メーカーも増産体制を順次敷いていく可能性が高く、少なくとも今後1~2年は右肩上がりの活況が続きそうだ。(半導体 異次元の成長)

 英調査会社のOMDIAによると、2021~24年における半導体世界市場の年平均成長率は、コロナ以前は1%を想定していたが、コロナ後は6%に上方修正している。仮に、年率6%の成長が継続するならば、現在約4700億ドルである世界の半導体市場は25年に6000億ドルを超えてくる(図1)。

供給不足に陥る

 近年の半導体市場を振り返ると、半導体メーカーの設備投資は17年に大きく盛り上がった。これは、データセンターに使用されるストレージ(記憶装置)の一部がハードディスク(HDD)からより高速で省エネなソリッドステートドライブ(SSD)に切り替わり、これに伴って半導体メモリーの需要が飛躍的に拡大したことによる。韓国のサムスン電子やSKハイニックス、米国のマイクロン・テクノロジーや日本のキオクシアらが増産投資を積極化し、製造装置市場も大きく拡大した。

 だが、こうした一連の増産投資が19年に一服し、以降は多くの半導体メーカーが製造プロセスの微細化や歩留まりの向上で生産効率を高め、生産量を最大化することに重きを置いてきた。このタイミングでコロナ禍が世界を覆い、「非接触」や「巣ごもり消費」のニューノーマルの定着で半導体の需要が急増し始めたため、足元では自動車向けなど一部の用途で供給不足が叫ばれる事態に陥っている(図2)。

 米中摩擦の深刻化も、結果的に半導体への設備投資を加速させた。企業は、半導体の調達リスク軽減へ従来よりも在庫を厚めに確保する動きを強めている。

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 中国やアジアへの生産依存度が大きいという「地域偏在」(図3)を解消するため、米国や欧州は半導体の域内生産や域内調達比率を高めるサプライチェーンの見直しに着手するとともに、国防や通信といった国家の競争力に関わる先端半導体を自国内・自国域で生産・調達できるような体制づくりに着手した。米国ではバイデン政権が半導体産業の振興に500億ドルを拠出すると表明し、欧州連合(EU)は半導体産業の強化へ総額1450億ユーロを投資する考えを示している。

トップ3が投資加速

 こうした各国の思惑を背景に、世界で叫ばれている半導体の供給不足を解消するため、主要半導体メーカーによる巨額の増産計画が次々と具体化しつつある(図4)。

 半導体のファウンドリー(受託製造)市場で世界シェアの5割以上を握る台湾のTSMCは、21年の設備投資額を280億ドルから300億ドルへ引き上げるとともに、23年までの3年間で総額1000億ドルの設備投資を実行すると表明した。製造プロセスを現在の5ナノメートルから3ナノメートル、2ナノメートルへと微細化を進めつつ、台湾を中心に生産能力を拡大し、並行して米国政府の要請に応じてアリゾナ州に5ナノメートルプロセスを持つ新工場を建設する。日本には約180億円を投じて先端パッケージング技術の研究開発拠点を開設することも決定済みだ。1000億ドルの設備投資のうち、10%程度をレガシープロセスと呼ばれる従来プロセスの能力増強にも充てる考えで、既に中国・南京工場に生産ラインを増設する計画が浮上している。

 韓国のサムスン電子は20年に半導体事業の設備投資に32・9兆ウォン(約3兆円)を投じたが、21年も同等以上の投資を実行すると目されている。DRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)、NANDフラッシュ(書き換え可能で、電源を切ってもデータが残る不揮発性メモリー)といったメモリー市場では世界シェア首位を獲得しているが、ファウンドリーでは首位のTSMCに大きく水をあけられているため、この差を詰めてロジック半導体分野を強化するのが目的だ。

 先ごろロジック/ファウンドリー分野への30年までの設備投資額を従来計画の133兆ウォン(約13兆円)から171兆ウォン(約16兆5000億円)に引き上げると発表。主力拠点の平沢工場で新棟を22年後半に竣工(しゅんこう)させるという。また、先端ロジック工場がない欧州にファウンドリー専用工場を新設することも前向きに検討しているといわれている。

 半導体売上高で世界首位の米インテルは、一時は製造プロセスのさらなる微細化をちゅうちょする動きを見せたが、2月にエンジニア出身のパット・ゲルシンガー氏が新CEO(最高経営責任者)に就任してから一気に空気が変わった。米国政府の後押しもあって、微細化を継続していく方針を示すと同時に、ファウンドリー新会社を設立して先端プロセスを用いた受託生産事業を本格化することも表明。設備投資額を200億ドルに上方修正し、アリゾナ州に工場をこれから2棟新設する計画である。さらに最先端パッケージング技術を強化するため、35億ドルを投じてニューメキシコ州の工場を拡充することも明らかにしており、海外工場の増強も示唆している。

日本メーカーも増産

 こうした状況に対し、日本の半導体メーカーも増産に向けた動きを活発化させてきた。

 主要顧客の1社だった中国ファーウェイへの出荷禁止措置によって20年度にCMOSイメージセンサーの増強投資を一時凍結したソニーグループだったが、21~23年度の第4次中期経営計画では再び増産投資を活発化させる方針を表明。3年間で計画している投融資1・5兆円のうち約7000億円を半導体への設備投資に充てる。4月に稼働させた長崎テクノロジーセンター(長崎テック)の増設棟「Fab(ファブ)5」の増強を順次進めるとともに、製造プロセスや大判化対応などを充実させてCMOSイメージセンサーの収益を向上させていく考えだ。主力用途であるスマートフォン向けに加え、今後は自動車用やAI(人工知能)センシング領域などを深耕していく。

 日本が世界的に高いシェアを有する電力制御用のパワー半導体でも今後新たな増産投資が見込める。電動化に伴って自動車向けの需要増が確実視されることに加え、太陽光や風力発電といった再生可能エネルギー関連、カーボンニュートラルに資する省エネ用途などに大きな需要の伸びが期待できるためだ。

 大手の一角である富士電機は19~23年度の5年間で1200億円を充てる計画だった半導体への設備投資を4年間で実行する計画に前倒しした。現在は200ミリメートルウエハーが中心である前工程を300ミリメートルに大口径化することも視野に入れており、23年度に計画していた売上高が上振れる可能性が高いと説明している。このほか、シャープから福山工場(広島県)の一部を買収して増産体制の整備を進めている三菱電機、加賀工場(石川県)に300ミリメートル量産ラインを新設する計画を具体化させた東芝、次世代パワー半導体といわれるSiC(シリコンカーバイド、炭化ケイ素)で世界シェア3割の獲得を目指すロームなどが、今後さらなる増産計画を具体化する可能性がある。

 半導体メーカーが相次いで増産計画を具体化させると、その影響は今後、製造装置メーカーや部材メーカーに波及していくことになるだろう。既に日本が世界シェアの6割を握るシリコンウエハーについて、主要メーカーである信越化学工業とSUMCOが300ミリメートルウエハーの新工場建設を検討していることが明らかになった。

 これから世界的に本格化が見込まれる5G(第5世代移動通信システム)インフラの普及、自動車の電動化、AIの社会実装、IoT(モノのインターネット)社会の到来などに鑑みれば、投資や景気に多少の波はあったとしても、中長期的に半導体の需要が拡大していくことは疑いようがない。現在浮上している半導体関連メーカーの増産計画は、これから始まる投資のごく一端が垣間見えたに過ぎないのだ。

(津村明宏・電子デバイス産業新聞編集長)

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