経済記者「一線リポート」

鬼滅にも登場 隠れキャラ「仁丹」の自虐ネタ戦略

小坂剛志・大阪本社経済部記者
  • 文字
  • 印刷
ちょっと自虐気味に「まだ売ってるし」とツイート。3.1万件の「いいね!」がついた=ツイッターより
ちょっと自虐気味に「まだ売ってるし」とツイート。3.1万件の「いいね!」がついた=ツイッターより

 今ではなじみのない人が多いかもしれない。大正や昭和の面影が色濃く残る口中清涼剤、仁丹(じんたん)のことだ。売り上げはピークだった1980年代から激減し、もはやオワコン(終わったコンテンツ)と見られがちだが、人気アニメ「鬼滅」や、ドラマ「逃げ恥」で“隠れキャラ”的に登場。その特異な存在感をさらに際立たせているのが、会社の公式ツイッターによる自虐的なつぶやきだ。創業120年を超える老舗企業で何が起きているのか。中の人を直撃すると、「あなたの知らない」仁丹が見えてきた。【毎日新聞大阪経済部・小坂剛志】

 コンビニに行くと、ガムや「フリスク」といった口内をリフレッシュする食品が山のように置いてあるが、仁丹はない。

 その仁丹は、1893年創業の森下仁丹(大阪市中央区)が販売している。創業者の森下博氏が、飲みやすく携帯や保存に便利な薬を作れないか考え、日露戦争中の1905年に開発した。当初は赤い丸薬だったが、29年からは甘草(かんぞう)、阿仙薬(あせんやく)、桂皮(けいひ)や生姜(しょうきょう)などの生薬を食用の銀箔(ぎんぱく)で包んでいる。口臭や二日酔いの緩和などで効能が期待されるロングセラー商品だ。

売り上げはピークの10分の1以下に激減

 現在の購入層は70~80代が多く、仁丹の癖のあるにおいを「おじいさんのにおい」と表現する人もいる。スーパーでも売られておらず、一部ドラッグストアの口臭ケアコーナーなどにひっそりと置かれている。同社によると、売り上げは非公表だが「80年代の30億円台から減り、今はピークの10分の1以下まで落ち込んでいる」という。

 仁丹は、緑色のキャップが特徴のガラス瓶(1650円)に、銀色の3250粒がぎっしり詰まっている。40代の記者は食べたことがなかったが、数粒を手に取って口に放り込んでみると、漢方のような独特の香りと苦みのある味わいが広がった。そばにいた飼い猫は記者の顔に鼻をくんくんとさせた後、慌てて逃げていった。

 職場で仁丹について聞いてみた。50代後半の男性上司は慣れた手つきで瓶のキャップを開け「若いころによく食べた」と口に放り込んだ。かむと広がる苦い香りに「懐かしい。ガム以外の口中清涼剤といえば、今はフリスクとか何種類もあるが、昔は仁丹一択だったんだぞ」と誇らしげに教えてくれた。「おじいちゃんが食べていた」と言いながら口にした後輩の20代女性は「お酒を飲み過ぎた時に飲む胃薬の味がする」と話した。

 息の長い商品だが今はお目にかかりにくいだけに、特に若い人とはあまり縁がない商品のように思えた。だが、記者が仁丹を取材したきっかけは、この歴史が長い森下仁丹が、老舗企業らしからぬ面白いことをやっていると聞いたからだ。その一つが会社の公式ツイッターだった。

3・7万人を超えるツイッターのフォロワー

 ツイッターをのぞくと…

この記事は有料記事です。

残り3465文字(全文4648文字)

小坂剛志

大阪本社経済部記者

 1980年山口県生まれ。関西学院大卒。松江や高知、奈良支局を経て2015年から大阪経済部。2019年から東京経済部で自動車業界、国土交通省を担当。2021年から再び大阪経済部。