毎日家業×創業ラボ

「コロナ後」の地方復活戦略!星野佳路氏×藻谷浩介氏

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議論を交わす星野リゾート代表、星野佳路さん(左)と地域エコノミスト、藻谷浩介さん=東京都中央区で2021年6月8日、小林努撮影
議論を交わす星野リゾート代表、星野佳路さん(左)と地域エコノミスト、藻谷浩介さん=東京都中央区で2021年6月8日、小林努撮影

 毎日家業×創業ラボは6月8日、星野リゾート代表の星野佳路さん、地域エコノミストの藻谷浩介さんをお迎えし、特別オンラインセッション「アフターコロナを見据える!~地方復活のシナリオ」を開催しました。家業的経営を続けてきた星野リゾートの歩みとこれから、「コロナ後」の観光を巡って、旧知の間柄であるお二人の白熱したセッションの様子を報告します。

「学び場」家業×創業ラボ・イベント報告

 セッション冒頭のテーマは、「星野リゾートに学ぶ、家業ならではの強み」。星野リゾートは多くの中小企業と同じく、株主と経営者が一致するファミリービジネス(家業)の形で運営されています。

 4代目経営者である星野さんが、ファミリービジネスの良い面としてあげたのは「長期的な視点で戦略を立てられること」。もう一つは「(代替わりに伴い)定期的に来る世代交代。経営者が一気に30歳若返り、イノベーションを起こす仕組みがビルトインされていること」でした。大企業では社長交代による若返りは5~10年程度。安定はしているものの、変化は徐々にしか起こりません。これに対し、家業的経営では一気に変化が起こせる利点を指摘しました。

 また、星野さんは、先代社長だった父親との対立で、一時的に会社を追われた自らの経験に触れ、「日本では『会社をどう経営するか』というノウハウは蓄積されてきたが、『次の世代にどうバトンタッチしていくか』はあまり研究されていない。海外で進んでいる(親子の)感情的なもつれや身の引き方を巡る学問を日本にも導入すれば、もっとスムーズな代替わりが可能になる」と語りました。

星野リゾートの代替わりは?

 ここで藻谷さんが「星野リゾートの代替わりはどうするのか」と鋭く切り込むと、星野さんは「次の代もファミリービジネスのまま残すことを目指している」と答えました。

 星野さんが継いだ30年前は、旅館1軒、社員150人の規模だった会社も、今は海外を含む50超の施設、社員も約4000人を抱える大所帯に。「継ぐ時の難しさは私の比ではない。その一方で、今は社内の人材が充実している。(創業家)ファミリーは長期視点をしっかり持ち、経営の現場は相当程度、現在の執行役員が役割を担う。現在とは役割分担が変わっていく」と見通しました。

「コロナ後」の観光の行方

 セッション後半は、参加者からの質問に答えつつ、お二人が「コロナ後」の観光の行方について議論を交わしました。

 インバウンド(訪日外国人客)の再開時期の見通しについて、星野さんは「ワクチン接種が進んだ欧州域内、米カリフォルニアからハワイへの旅行が劇的に戻ってきている。接種率があるパーセンテージを超えると、観光は完全に元に戻ると思う」と予測。「今年9月以降、我々が今感じている感覚よりも、はるかに良いレベルに戻ってくるのではないか」と話しました。

 藻谷さんも「日本は、飛行機で5~6時間で来られる範囲に20億もの人々が住んでいるという恵まれた立地にある」としてインバウンド復活を予想しました。

 ここで、星野さんが「インバウンド格差」と呼ぶ課題を指摘しました。東京、京都、大阪といった大都市がインバウンド全体の6割を集めてしまい、多くの地方には波及していないという問題です。星野さんは「コロナ後」を迎えるのを契機に「この課題に取り組み直さないといけない」と語りました。

「インバウンド格差」解消の鍵は…景観と自然

 地方はなぜインバウンドを取り込めていないのでしょう。お二人の議論は、日本各地の景観に発展しました。

オンラインセッションに登場した、左から星野佳路さん、藻谷浩介さん=東京都中央区で2021年6月8日、小林努撮影
オンラインセッションに登場した、左から星野佳路さん、藻谷浩介さん=東京都中央区で2021年6月8日、小林努撮影

 藻谷さんが「欧州では市街地が非常に大きな観光資源になっているが、日本はそうなっていない」と問題提起すると、星野さんは「日本の地方は、それぞれの文化は残っていても、建築やデザイン、雰囲気、景観といったものをかなり壊してしまった。景観を残した倉敷や福島・大内宿は、インバウンド人気も高い。景観を新しい日本の形として良くしていけるか。考えないといけないテーマだ」と話しました。

 また、星野さんは、自治体や企業が海外観光地を視察する際も「しっかりとした目的と視点を持って視察することが大事だ。観光人材はセンスが問われる。幹部職の人より、20代、30代の人たちが行き、考え、発想してもらう方が良い内容を持ち帰ってくる可能性が高まる。世代交代を図り、若い世代に権限を一気に持たせることも重要だ」と提案。若い世代が主導した好事例として、山口県・長門湯本温泉の面的再生計画を紹介しました。

 日本の観光の弱い分野として「自然観光」も話題にあがりました。星野さんは「国内には多くの国立公園があり、世界自然遺産もある。こうした美しい自然の景観を生かし、多様な観光を強くしていくことが、インバウンド格差をなくしていく努力にもなる」と話しました。

 具体的には、記念撮影をしておしまいの「修学旅行型観光」を脱し、個人客や自然について深く知りたいエコツーリストに向けたプログラムの重要性を指摘。藻谷さんも「地元の自然を生かすことで、どの地方にも経済や雇用を活性化する道がある」と述べました。

観光の視点を生かす「地消地産」

 お二人からは「地消地産」というキーワードもあがりました。地元の産品を地元で消費する「地産地消」ではなく、地元で消費するものを地元で生産する「地消地産」。星野リゾートでは、シェフがその地方ならではのメニューを考え、それに合う野菜の栽培や器の製作を、地元の農家や陶芸家に依頼しているといいます。星野さんは「観光人材が持つマーケットの視点が、地元のクリエーターたちへの刺激になる」。藻谷さんも「一歩進んだマーケットイン(消費者の視点から製品・サービスを開発する手法)だ。地元の観光産業で使うものを、地元でちゃんと作り直していくことで、農家や陶芸家、クリエーティブな人たちを支えていくことができる」と語りました。

 セッションの締めくくりとして、藻谷さんは「コロナで『世界が変わる』という人がいるが、そうではない。変えようとするから変わるのであって、変わるだろうと思っていては何も変わらない」と指摘。これを受け星野さんは「ワクチン接種が進むと、どんどん『元』に戻ろうとする力が働くだろう。そうした中で、このコロナ禍という機会に気づいた『変えるべき変革』については、意図的に、積極的に変えていかないといけない」と述べました。

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