藻谷浩介の世界「来た・見た・考えた」 フォロー

藻谷氏がアンカラで考えた「トルコ系の地政学」の深さ

藻谷浩介・地域エコノミスト
トルコ共和国建国の父をたたえるアタチュルク廟(写真は筆者撮影)
トルコ共和国建国の父をたたえるアタチュルク廟(写真は筆者撮影)

トルコ・アンカラ編(2)

 2019年5月に1泊したトルコの首都アンカラ。古代ローマ時代に造られた城塞(じょうさい)の横のアナトリア文明博物館で、1万2000年前の世界最古といわれる祭祀(さいし)遺跡と、9000年前の世界最古の都市遺跡の展示を見て、当地の歴史のとんでもない古さに驚いた筆者。トルコ人が住み始めたのは11世紀で、それからまだ1000年ほどしかたっていないというのに。

アナトリア文明博物館の展示に驚く

 アナトリア文明博物館の見学を続ける。続いて出てきた展示は、8000年ほど前の土人形や彩色土器だ。さらに4000~5000年前の、銅や金銀を使った飾りや食器。細工が極めて精工な、今売られていても驚かないようなものもある。動物をかたどったものも写実性が高い。

 その先には、3700年ほど前に世界で始めて製鉄を始めたヒッタイト帝国の時代の、アッシリア伝来の楔(くさび)形文字を刻んだ粘土板が並ぶ。字というよりは文様に見えるが、内容は解読されている。取引の証文や裁判の記録、誰かの事績と、情報としては現代と似たり寄ったりだ。そして展示の最後は2800年前の、釉薬(ゆうやく)を塗った鮮やかな陶器や、ガラスの器で終わっていた。日本が縄文時代だった当時、当地にはここまでの文物があったのだ。

 その後もアナトリア半島では、2700年前にリデュア王国が当地で世界初の硬貨を鋳造。ギリシャの植民都市が増え、アレクサンダー大王が往復してヘレニズム文化が栄えた。続いたのが古代ローマの支配で、さらにコンスタンティノープル(現イスタンブール)に15世紀まで東ローマ帝国が存続する。11世紀にはセルジュー…

この記事は有料記事です。

残り2496文字(全文3192文字)

地域エコノミスト

1964年山口県生まれ。平成大合併前の約3200市町村のすべて、海外114カ国を私費で訪問し、地域特性を多面的に把握する。2000年ごろから地域振興や人口問題に関して精力的に研究、執筆、講演を行う。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」ほか多数。国内の鉄道(鉄軌道)全線を完乗した鉄道マニアでもある。