
この会社は一体どうなっているのだろう? それが4月に経済部に赴任し、東芝を取材してきた記者の感想だ。昨年7月の株主総会をめぐり、車谷暢昭社長(当時)ら経営陣が経済産業省と結託して大株主に圧力をかけていたことが、10日公表された外部弁護士の報告書で明らかになった。今年4月には、車谷氏らの下で市場に流通する株式を全て買い取って上場を廃止することも一時検討された。いずれも経営に口を出す「物言う株主」の排除を狙ったものだが、会社の将来のためというよりも経営陣の保身のように見えてならない。改めて、一連の問題を考えたい。【毎日新聞経済部・井川諒太郎】
それは、社会部から経済部に配属されて1週間後の4月7日未明のことだった。既に就寝していた記者は、上司の電話でたたき起こされた。「東芝にファンドの買収提案があったらしい。社長の家に朝駆けしてくれ」。慌ててウェブサイトで情報収集してみたものの、経済の基礎知識が乏しい私の頭にさっぱり入ってこない。二度寝は諦め、とにかく車谷社長の自宅に急行した。現在まで続く、騒動の始まりだった。
これは社長の保身なのか?
東京都内の高級住宅街にある社長宅前には、10社近い報道陣が詰めかけていた。テレビカメラも複数ある。重大なことが起きていることを嫌でも実感する。午前8時過ぎ、車谷氏が出てきた。「提案は受けていますけど。これから取締役会で議論しますので」。名刺を渡す間もないほど一瞬のやりとりだったが、車谷氏はうっすらと笑みを浮かべながら、取り囲んだ報道陣に事実を認めた。
買収を提案した英ファンド「CVCキャピタル・パートナーズ」の提案内容も、同僚たちの取材でわかってきた。経営陣の同意を前提に、東芝の全株式を公開買い付け(TOB)によって市場から買い取る、というものだ。東芝株の所有者は、不特定多数の株主から、ファンド1社に移る。配当の増額などを求め、ことあるごとに経営に口を出す「物言う株主」を排除し、友好的なファンドの下でじっくり成長を目指そう――というわけだ。提案によると、車谷氏ら現経営陣は買収後も残留し、経営のかじ取りを担うのだという。「ずいぶん都合のいい話だな」というのがそのときの印象だ。
そう思ったのは私だけではなかったようだ。実は当初から、東芝社内外で車谷氏の「保身」を疑う見方が出ていた。というのは、車谷氏は昨年7月の定時株主総会で、取締役再任への賛成票が約57%まで低下し、次の株主総会での続投が危ぶまれていたからだ。
さらに今年3…
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