毎日家業×創業ラボ

「やばい、カネがない」尾鷲の仕掛け人が直面した危機

道永竜命・毎日新聞中部報道センター記者
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三重・尾鷲の観光交流施設「夢古道おわせ」=道永竜命撮影
三重・尾鷲の観光交流施設「夢古道おわせ」=道永竜命撮影

 商工会議所から出向する形で、三重・尾鷲の観光交流施設「夢古道おわせ」の経営を任された伊東将志さん(47)。オープン当初はゴールデンウイークの追い風に加え、尾鷲でしか食べられない郷土料理のランチバイキングが評判になり、順調な滑り出しを見せました。しかし、見よう見まねで始めた施設経営。綱渡りの資金繰りを迫られます。

私の家業×創業ストーリー・伊東将志さん<3>

 尾鷲は市街地のほかに、「浦」と呼ばれる九つの集落から成り立っている。今でこそ道路でつながっているが、かつては船や熊野古道を使って行き来していた。

 浦はそれぞれ独立志向が強く、当然ながら料理の味付けも違う。例えば、酢締めしたサンマを使う尾鷲名物の「さんま寿司(ずし)」。海辺は腹開きだが、丘の方だと背開き。和がらしで食べるが、わさびを使うところや、かんきつ類を使うところもある。

 「そういう面白さが出ればいい」と仕掛けたのが、「お母ちゃんのランチバイキング」だった。調理場に立つのは一流シェフなどではなく、各集落の「お母ちゃん」たち。集客だけでなく、浦々の年配女性の技と郷土愛を表現してもらうことで、その浦に活気を生み出すことを狙った。

 浦ごとにNPO法人や企業組合などの形でそれぞれ起業してもらい、夢古道おわせのビジネスパートナーとして、調理場に入る。当初は三つのグループが週替わり。調理器具や調味料を共有しないほどグループごとに競い合い、それぞれが個性を出し合った。

 グループの中には「独立」して、自分の浦に自前の飲食店を開き、「お母ちゃん」がそこで働く仕組みを導入するケースも出てきた。尾鷲の高齢化率はすでに40%を超え、80%超の浦もある。日本でもトップクラスの高齢化率の社会で、「その現実と格闘している感じ」が伝わったのか、各地から視察団が殺到。来…

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道永竜命

毎日新聞中部報道センター記者

 1979年北海道生まれ。明治大学卒。北海道の地方紙記者を経て、2012年毎日新聞社に入社。中部報道センターを振り出しに岐阜支局、大垣通信部を経て、再び中部報道センター。19年5月から東京本社経済部で、電機メーカーなどの製造業を中心に取材。20年4月からはコロナ禍で進む企業のデジタル化などを取材しながら、IT企業を担当した。21年4月から3度目の中部報道センター。