経済記者「一線リポート」

デジタルは介護を変えるか 「老老殺人」取材して考えた

池田美欧・毎日新聞経済部記者
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「そんぽの家 国立南」で導入されているセンサー付きベッドに横たわる入居者。心拍数や呼吸数などが計測される=東京都国立市で2021年5月11日、池田美欧撮影
「そんぽの家 国立南」で導入されているセンサー付きベッドに横たわる入居者。心拍数や呼吸数などが計測される=東京都国立市で2021年5月11日、池田美欧撮影

 「介護の負担を減らす良い方法はないか」。介護を巡って起きた殺人事件をかつて取材して以来、思ってきたことだ。経済部に在籍する今となっては縁遠いテーマになってしまったと感じていたが、保険業界にも介護を手がける会社があり、介護現場のデジタル化に取り組んでいると聞いた。介護の負担軽減につながるのか。取材して考えてみた。【毎日新聞経済部・池田美欧】

進まない「介護の社会化」

 2016年9月、佐賀県内のある一軒家。男性(当時69歳)は妻(当時71歳)の名前を呼んだ。「もう死んでくれ。俺も死ぬから。俺も一緒に死ぬからもう死んでくれ」。そして男性は延長コードで妻の首を絞めた。苦しみ始める妻を前に「こんなことしたくなかった。すまんのお、すまん。俺も後で行くから我慢してくれ」と泣きながら許しを請うた。

 3月まで在籍した前任地の佐賀支局で取材した「老老介護殺人」事件の地裁公判で明らかにされた内容だ。男性は犯行時の様子をICレコーダーで録音し、遺書を残していた。妻を殺害した後、延長コードで首をつったり、川に飛び込んだりしたが死にきれず、警察官に救出された後に逮捕された。

 検察側の冒頭陳述などによると、下半身不随の妻は精神病を患い、介護職員に叱責するなどして施設になじめず、施設を転々としていた。施設に入っていない間は男性が自宅で妻を介護し、妻の寝室に近い台所で寝ながら世話をしていた。しかし高齢になるにつれて妻の要望に応えられないことが増え、限界を感じるようになった。男性は精神的にも肉体的にも追い詰められ、介護を続ける自信をなくしていったという。

 「長年連れ添ったパートナーを殺害してしまうほど介護の負担は重いのか」。駆け出…

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池田美欧

毎日新聞経済部記者

1993年ドイツ生まれ。2016年入社。佐賀支局を経て2021年4月から東京経済部。佐賀支局では陸上自衛隊オスプレイ配備計画や介護や障がい者支援などをテーマに取材した。東京経済部では主に生損保や銀行を担当している。