会社員として働きながら起業する。創業120年を超えるロート製薬(大阪市)が社員の「二刀流」を後押しする試みを始めている。社員が挑戦するのは、クラフトビールにオンライン料理教室、サングラス製造販売……。あれ? 会社で働いているだけでは得られない経験を積んでほしいということらしいが、それにしても本業からあまりに遠く離れているような。どういうことなのだろう。まずは「二刀流」を始めた社員たちを取材することにした。【毎日新聞経済部・松岡大地】
社員をしながらクラフトビール店経営
6月下旬、週末の昼下がり。日本有数の観光地、奈良公園から5分ほどの場所にある奈良市の「ゴールデンラビットビール」を訪ねると、約20席あるお店はほぼ満席だった。
お目当ては、奈良のいちごを使った「あすかびーる」など、地元の素材にこだわったクラフトビール。「良い香りがするでしょう」。市橋健さん(40)が元気に接客をしていた。
市橋さんはこのお店の代表を務める経営者だが、平日はオフィスに出勤するロート製薬の社員だ。工場で医薬品製造を担当していた2010年、奈良で開かれた「平城遷都1300年祭」のイベント会場に地ビールがないことに気付いた。それが最初のきっかけだった。
「奈良にも地ビールがあったらいいなあと思いました。そもそもビールってどうやって造るんやろうっていう好奇心でしたね」。会社のまとまった休みに醸造所にボランティアで手伝いに行き、会計なども独学で勉強した。14年に奈良市主催のビジネスコンテストで優勝。そんな中、16年に社内の人事制度改革で副業が解禁されることになり、…
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