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コロナが早めた「30年先の未来」急低下した鉄道混雑率

土屋武之・鉄道ライター
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混雑路線として有名な東京メトロ東西線
混雑路線として有名な東京メトロ東西線

 国土交通省が7月9日、通勤通学時間帯における鉄道主要路線の混雑率(2020年度)を発表した。19年度の混雑率と比べると、多くの路線で大幅に低下しており、世間の反響を呼んでいる。

 混雑率とは、輸送人員(乗客数)を輸送力(定員数)で割ったものだ。定員1000人の列車に2000人が乗り込めば混雑率は200%となる。国交省が発表したのは各区間の最混雑時間帯1時間における数字であり、これが大きく下がったということは、朝ラッシュ時の混雑が大幅に緩和したことを意味する。多くの路線の最混雑時間帯は朝だからだ。

 原因ははっきりしており、新型コロナウイルス感染症の影響だ。「密」を避けるために日常的な通勤、通学が控えられ、リモートワークやリモート授業の推奨によって混雑率が急低下したのである。

 3大都市圏で見ると、東京圏(主要区間)では平均混雑率が09年度から160%台で推移し、19年度も163%だった。それが20年度はいきなり107%まで低下した。大阪や名古屋でも同じ傾向を示している。

一概には言えない個別路線の事情

 次に、鉄道会社の経営に直結する輸送人員の減り幅と合わせて見ていく。

 19年度に混雑率が全国1位(199%)だった東京メトロ東西線の「木場→門前仲町」は、最混雑時間帯の輸送人員が7万6388人(19年度)から4万7189人(20年度)と3万人近く落ち込んだ。

 代わって20年度に混雑率トップ(140%)になったのは日暮里・舎人ライナーの「赤土小学校前→西日暮里」だが、こちらも8407人(19年度)から6604人(20年度)に減っている。

 ただ、路線ごとに見ていくと、減少要因は一概には言えなくなる。沿線の産業構造や学校のリモート授業率といった複数の要素が絡んでくるからだ。例えばリモートワークに切り替えづらい製造業が沿線に多ければ、輸送人員はそれほどは減らない。

 リモート授業という側面で言えば、影響を大きく受けた路線の一つは、東京圏では中央線だろうか。通勤客も多かったのは間違いないが、沿線には著名な大学をはじめ学校が多い。

 中央線各駅停車の「代々木→千駄ヶ谷」は、最混雑時間帯の輸送人員が3万3790人(19年度)から2万570人(20年度)に減った。19年度の混雑率は99%とそれほど混んでいた区間ではないが、20年度は60%まで下がっている。中央線快速の「中野→新宿」でも輸送人員が約37%減となった。

中小鉄道も深刻

 中小の鉄道会社も事態は深刻だ。京都市内を走る京福電気鉄道は、通勤や嵐山などへの観光のほか、沿線の大学への通学にも多く利用されてきた。その分、落ち込みは著しく、主要2区間の輸送人員(最混雑時間帯)がともに35%近く減った。

 将来の少子化による通学客減少は、どこの鉄道会社も覚悟していただろう。だが実際にはかなり先の話と見ていたはず。ある地方民鉄の経営責任者からは、「30年先と想定していた未来が、2020年にいきなり来てしまっ…

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土屋武之

鉄道ライター

1965年、大阪府豊中市生まれ。大阪大学で演劇学を専攻し、劇作家・評論家の山崎正和氏に師事。出版社勤務を経て97年に独立し、ライターに。2004年頃から鉄道を専門とし、雑誌「鉄道ジャーナル」のメイン記事などを担当した。東日本大震災で被災した鉄道路線の取材を精力的に行うほか、現在もさまざまな媒体に寄稿している。主な著書に「ここがすごい!東京メトロ」(交通新聞社)、「きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)など。