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東京五輪後の「巨額赤字」誰がどう返済していくのか

熊野英生・第一生命経済研究所 首席エコノミスト
東京オリンピック開会式当日、会場の国立競技場周辺に集まった人たち=2021年7月23日、平川義之撮影
東京オリンピック開会式当日、会場の国立競技場周辺に集まった人たち=2021年7月23日、平川義之撮影

 東京オリンピックが始まると、日本選手の活躍を応援したくなる。開催期間を通じて、何人ものヒーロー、ヒロインが誕生して、スポーツの歴史に新たな1ページが書き加えられるだろう。私たちにとっては無形の資産となる。

 これは歓迎されることだが、五輪開催の厳しい課題がパラリンピックも終わった全日程終了後に残される。国立競技場などの建設費のほか、1年延期による追加費用、感染対策費の拡充などの公的支出増が、巨大な大会収支の赤字をつくる。その赤字への対処は、今後、東京都や政府などの大会関係者が長期計画を立て、税収増加などで穴埋めを検討していくことになるだろう。これは五輪の負の意味の「レガシー(遺産)問題」である。

五輪の経済効果は大外れ

 筆者は、五輪開催は賛成だが、政府や東京都のレガシー問題への対応は不十分だと考えている。「五輪をやって終わり」とは間違っても考えたくない。むしろ、大会収支計画はコロナ禍で大きく狂ったからこそ、負の遺産をそのままにしないように、大会後にその穴埋めの説明責任を果たすべきだと考える。

 東京都には、2017年4月に発表した五輪のレガシー効果の試算がある。総費用1兆6440億円(第5版)に対して、12兆2397億円のプラスのレガシー効果が見込めるという試算だ。

 選手村の跡地利用・交通インフラ整備による街づくりで2兆2572億円、観光需要拡大など経済活性化・最先端技術活用で9兆1666億円などとなっている。このレガシー効果は、今となっては過大評価と言わざるを得ない。観光需要は回復のめどが立たず、ビジネス拠点の形成も期待できない。

 五輪開催の考え方として、その開催を期に東京が…

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第一生命経済研究所 首席エコノミスト

1967年山口県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業。90年、日本銀行入行。調査統計局などを経て、2000年、第一生命経済研究所入社。11年4月から現職。専門は金融政策、財政政策、金融市場、経済統計。