
歯ブラシなど口腔(こうくう)ケア製品を中心に、ユニークな商品を世に送り出す東京・品川の「ファイン」。父が亡くなり、社長となった母とともに会社を経営することになった清水直子さん(53)でしたが、不安と焦りが先に立ち、やることなすこと、うまくいきません。「会社の愛し方が分からない」。そんな泥沼から、はい出すまでの物語です。
私の家業ストーリー<2>ファイン・清水直子社長
「ちゃんとしないと会社は3年で潰れるぞ」。1995年、父益男さんの葬儀で、参列者にかけられた言葉が胸に突き刺さった。親切心だったのだろうが、葬儀に政界関係者を一人も呼ばなかったことを注意されたのだ。
そのことと会社の将来と「何の関係があるの」とも思ったが、当時27歳の直子さんには重く響いた。
会社が潰れる? しかも、たったの3年で? 大黒柱を失い、女所帯になる不安が一層のしかかった。
ファインの社長職は、経理を取り仕切っていた母和恵さんが引き継いだ。益男さんは生前、「自分は成り行きで歯ブラシをやることになったが、それにこだわる必要はない」と言い残していた。歯ブラシの製造販売は薄利多売で、決してもうかる事業ではない。後に残る妻と娘の選択肢を広げるために、商売替えをしてもいいと告げていた。
それでも、和恵さんが選んだのは、歯ブラシだった。みんなが…
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清水憲司
毎日新聞経済部副部長(前ワシントン特派員)
1975年、宮城県生まれ。高校時代まで長野県で過ごし、東京大学文学部を卒業後、99年毎日新聞社に入社。前橋支局を経て、東京経済部で流通・商社、金融庁、財務省、日銀、エネルギー・東京電力などを担当した。2014~18年には北米総局(ワシントン)で、米国経済や企業動向のほか、通商問題などオバマ、トランプ両政権の経済政策を取材した。