
A輔さん(42)は飲食店を数店舗経営しています。新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言で休業・時短営業の要請や酒類提供の制限を受けており、現在、その範囲内で営業を続けています。宣言の解除に備え、アルバイトを含めた全従業員60人にワクチン接種の状況を調査したいと考えていますが、どのようにすればいいか悩んでいます。
宣言の解除後を見据えて
A輔さんの店舗は経営がかなり厳しい状況ですが、テークアウトに力を入れたり、昼から夜まで通しで営業したりするなどして、少しでも売り上げを上げる努力を続けています。また雇用調整助成金を活用しながら従業員の雇用を守っています。
A輔さんは、要請や制限が緩和された場合は、引き続き感染防止対策に細心の注意を払いながら、積極的に営業していくつもりです。そのため、従業員のワクチンの接種状況を知り、接種を受けたスタッフを接客担当にする計画です。
ワクチンの接種状況については、できれば全従業員に聞き取り調査をしたいと考えています。誰が接種を受けたかを把握し、受けていない従業員には接種を促したいからです。そして、アルバイトについては、接客業務が中心のため接種を受けた人を優先的にシフトに入れるつもりですが、そうした取り扱いをしていいのかどうか迷っています。
ワクチン接種への会社の対応は
会社が業務命令として、従業員にワクチンの接種の有無を申告させることができるかどうかと、接種の有無をもとに業務の担当を決めたり、シフトの調整をしたりできるかどうかを考えます。
会社の対応としてまず押さえておくべき点は、ワクチン接種を受けるかどうかについては従業員の個人の判断であり、接種の有無については従業員の個人情報であることです。会社はワクチン接種や、接種の有無の申告を強制することはできません。
一方、会社には安全配慮義務があります。従業員の健康状態に配慮し、人員の配置や業務の…
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特定社会保険労務士
大阪市出身。2015年、関西大学大学院法学研究科博士前期課程修了。現在、大阪大学大学院法学研究科博士後期課程在籍中(専攻:労働法)。01年、社会保険労務士資格を取得。会計事務所勤務などを経て06年4月独立開業。井寄事務所(大阪市中央区)代表。著書に『トラブルにならない 小さな会社の女性社員を雇うルール』(日本実業出版社)など。http://www.sr-iyori.com/