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シリコンバレーの“起業家訴追”に全米が注目する理由

古本陽荘・毎日新聞北米総局長
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スターから被告人へ。果たして今後は?(ホームズ氏=中央) Bloomberg
スターから被告人へ。果たして今後は?(ホームズ氏=中央) Bloomberg

 米西部カリフォルニア州のシリコンバレーは、ベンチャー企業が集まる業界の「聖地」として知られる。新しい技術を開発し大企業にすることを夢見る若者と、投資で巨万の富を築こうとする投資家が入り交じる独特な世界だ。失敗するベンチャー企業は少なくない。いかさままがいの投資話もある。シリコンバレーの企業文化は米国でも特殊だと指摘されてきた。

 そのシリコンバレーを舞台に9月に同州で始まったある刑事事件の裁判が全米の注目を集めている。女性起業家が投資家にウソをついた詐欺罪などで連邦捜査当局から訴追されたのだ。有罪になれば禁錮20年になる可能性がある。

弁護側は「事業の失敗に過ぎない」

 被告人の名前はエリザベス・ホームズ氏(37)。破綻した「セラノス」という血液検査のベンチャー企業の最高経営責任者(CEO)だった。開発していた技術は、高額の血液検査の簡素化を図り、検査費用の大幅な削減を狙ったものだった。注射針で採血するのではなく、指先などから数滴の血液を採取するだけで、多くの検査を可能にするとうたっていた。

 セラノス社の資産価値は一時、約90億ドル(約9900億円)に膨らんだ。だが、2015年にウォール・ストリート・ジャーナル紙が、「検査の信頼性に疑問がある」と報道。公衆衛生当局も事業の停止を命じる事態に発展した。

 捜査当局は、ホームズ氏が検査の精度に問題があることを知りながら「投資家らにウソをつき続けてきた」と主張し、詐欺に当たると判断した。だが、弁護側は「事業の失敗に過ぎず、刑事訴追は筋違いだ」と反論している。星の数ほどあるシリコンバレーの事業破綻が刑事訴追されることは珍しく、裁判の行方にはベンチャー業界全体が関心を寄せている。

シリコンバレーの今後に影響も?

 しかし、注目を集めている本当の理由は、ホームズ氏の経歴にある。ビル・ゲイツ氏やスティーブ・ジョブズ氏が大学を中退したように、…

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古本陽荘

毎日新聞北米総局長

1969年生まれ。上智大文学部英文科卒、米カンザス大大学院政治学修士課程修了。97年毎日新聞入社。横浜支局、政治部、外信部を経て2018年12月から北米総局長(ワシントン)。