
ドイツ南部ミュンヘンで9月に開かれた国際自動車ショーを取材した。気候変動対応で欧州自動車大手の電気自動車(EV)シフトが目立った。いずれの展示も近い将来の自動車社会を映し出していたように思うが、会場には「その先の未来」もあった。その未来の中には、日本のある人気アニメの影響もあると聞き、驚いた。
会場を歩いていると、大手自動車メーカーのきらびやかな展示ブースとは対照的に、小ぶりでシンプルな展示が私の目をひいた。ここはドイツのベンチャー企業「アトラス・エアロ」の展示コーナー。ここで足を止めたのは、翼があり、見た目は2人乗りの小型飛行機のようなものが置かれていたからだ。
「これ、何ですか?」と尋ねると、最高経営責任者(CEO)のトビアス・サルバウム氏(28)が「今回初めてお披露目する試作機です」と切り出し、詳しく説明してくれた。
サルバウム氏によると、試作機はドローンのように垂直に離陸し、機体後部のプロペラで時速180キロまで加速して前進する「ヘリコプターより効率的な飛行機」だという。
翼を折りたたんで地上でも走行できるという。ただし、時速は20~30キロで「自動車ではなく、自転車のようなもの」だそうだ。車ほどの速さはないが「空飛ぶクルマ」のひとつと言えそうだ。動力源は機体に搭載した充電池だ。
試作機にハンドルなどはなく、まずは無人の遠隔操作で飛行試験を始める。2022年には有人飛行試験を始め、26年の市場投入を目指す。サルバウム氏は「まずは効率的で環境にもいい飛行機として、ヘリコプターの代替を目指します。30年代には自動運転機能も搭載した後継機を出したいと思っています」と話す。
一般の人にも操作が簡単で、身近な移動手段として量産できるようになれば「価格は高級自動車並みになる」と、サルバウム氏は見込んでいる。
ライト兄弟の再来?
「空飛ぶクルマ」づくりの始まりは7年ほど前にさかのぼるという。サルバウム氏の兄で、材料科学を研究していたマクシミリアム・サルバウム氏(35)がドローンと飛行機の構造や飛行方法に関心を持ち、両方の特徴を生かした飛行機作りを開始。起業に興味があった弟のサルバウム氏が「人生をかけている兄のビジョンを形にしよう」と19年にアトラス・エアロを創業した。
兄弟で新しい乗り物の開発をした歴史上の人物といえば…
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横山三加子
毎日新聞欧州総局特派員(ロンドン)
1981年、埼玉県生まれ。法政大学社会学部卒。2004年、毎日新聞社に入社。岡山支局、大阪本社経済部を経て13年から東京本社経済部。電機・通信業界、経済産業省や財務省、財界などを担当。19年10月から現職。