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追い詰められて見えた「左官職人にしかできない仕事」

清水憲司・毎日新聞経済部副部長(前ワシントン特派員)
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さまざまな仕上がり見本を手にする原田左官工業所の原田宗亮社長=東京都文京区で、手塚耕一郎撮影
さまざまな仕上がり見本を手にする原田左官工業所の原田宗亮社長=東京都文京区で、手塚耕一郎撮影

 女性や若者の職人が活躍する東京都文京区の「原田左官工業所」。3代目経営者の原田宗亮(むねあき)さん(47)が社長に就任した頃は、仕事はあるけれど利益が出ず、安価なビニール製壁材も出回って、業界の先細りは鮮明になっていました。突破口はどこにあるのか。打開策を模索し始めた直後に、リーマン・ショックが襲いかかります。

私の家業ストーリー<2>原田左官・原田宗亮さん

 会社の要である番頭を7年半にわたって務めた宗亮さんは2007年、父宗彦さんの後を継ぎ、原田左官の社長に就任した。月100件前後の仕事をこなし、黒字決算を続けていたものの、業界にありがちな「どんぶり勘定」もあって、年間の利益は約100万円にまで減っていた。

 バブル期の過剰投資も重荷になり、借入金は年間売上高とほぼ同じ約6億円。この利益水準からすると、返済には何百年もかかる計算になる。持続可能な姿とは言えなかった。

 いくら仕事をしても、利益が残らない。こうした状況に拍車をかけたのは、08年9月に発生したリーマン・ショックに続く不況だ。ビルから住宅まで建築件数が落ち込んだのに加え、コスト削減のため、左官という手仕事ではなく、工業製品であるビニール製壁材を採用する動きがさらに強まった。

 左官職人が壁を塗ると、1平方メートル当たり6000円前後の費用がかかるのに対し、ビニール製壁材なら1500~2000円と、3分の1で済む。どちらを選ぶかは施主の判断だ。

 「とにかく仕事を取るしかない」。多くの同業者と同じく、売り上げの減少を補おうと単価が安くても仕事を引き受けたが、手元に残る利益はやはりわずかだった。

「どんぶり勘定」からの脱却

 「どんぶり勘定」からの脱却が待ったなしになった。それまでは…

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清水憲司

毎日新聞経済部副部長(前ワシントン特派員)

 1975年、宮城県生まれ。高校時代まで長野県で過ごし、東京大学文学部を卒業後、99年毎日新聞社に入社。前橋支局を経て、東京経済部で流通・商社、金融庁、財務省、日銀、エネルギー・東京電力などを担当した。2014~18年には北米総局(ワシントン)で、米国経済や企業動向のほか、通商問題などオバマ、トランプ両政権の経済政策を取材した。