
SDGs(持続可能な開発目標)や環境・社会・企業統治(ESG)投資が脚光を浴びる中で、企業が実態よりも自社の環境対策や従業員の待遇をよく見せる「粉飾」が横行している。同志社大大学院の須貝フィリップ教授(マーケティング学)がそう懸念するのは、どんな会社が本当に良い会社なのかを適切に測る「ものさし」がないからだ(前回SDGsは「ただの広告」?企業の“粉飾”という大問題参照)。
どうすれば現状を変えられるか。須貝教授らの研究チームは、企業の価値を中立的、客観的に測れる「ものさし」を考案し、世界に広めようとしている。そこに息づいているのは、日本に根付く「エシカルな資本主義」の考え方だ。【聞き手・清水憲司/経済部】
同志社大大学院・須貝フィリップ教授に聞く(下)
――須貝さんはマーケティング学の教授です。企業の株主価値だけでなく、従業員や顧客、取引先、地域社会、地球環境といった他のステークホルダー(利害関係者)にもたらす価値について研究を始めたのは、なぜですか。
◆須貝さん マーケティングは一般に市場調査や広告を駆使して、モノやサービスをできるだけ多く売ることだと考えられていますが、これは時代遅れな考え方です。米国マーケティング協会は2007年から、マーケティングについて「消費者、顧客、取引先、社会の全体に向けて価値を創造、伝達、分配や交換をする活動、組織や仕組み作り」と定義しています。
マーケティングの新しい定義は「価値の創造である」とMBA(経営学修士)の授業で教えた時、ある学生から「それぞれのステークホルダーにもたらす価値はどのように測るのですか」という質問が出ました。これは、まだ誰も十分に回答できていない、とても良い質問でした。そこで、研究チームを立ち上げ、企業が生み出す…
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