ベストセラーを歩く

「学生は村上春樹の何にひかれるか」理由を考えた

今沢真・経済プレミア編集長
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村上春樹の本を手にする十重田裕一さん(右)と重里徹也さん=村上春樹ライブラリーで2021年10月5日撮影
村上春樹の本を手にする十重田裕一さん(右)と重里徹也さん=村上春樹ライブラリーで2021年10月5日撮影

村上春樹ライブラリーを訪ねる(3)

 早稲田大学キャンパス内(東京都新宿区)に開館した「村上春樹ライブラリー」の館長、十重田裕一(とえだ・ひろかず)早大教授と、重里徹也・聖徳大教授の村上春樹をめぐる対談は、学生が作品をどう受け入れているかに話が及んだ。対談の最終回をお届けする。【司会は経済プレミア編集部・今沢真、写真も】

 ――お二人は学生に日本文学を教えています。学生は村上春樹をはじめ文学への関心は高いですか。

 ◆重里徹也さん 私が教えている聖徳大学は女子大ですが、たとえば、充実した恋愛はどのようにしたら可能なのかといったテーマが学生たちの心をつかんでいます。

 村上春樹と小川洋子の2人が現代作家で突出して人気があります。2人とも人間と人間がそのままではつながれないので、どうやったらつながれるかといったようなことを追求している一面があると思います。そこにひかれている学生も多いです。

「倫理」を絶えず考えている作家

 ――作品は学生によく読まれていますか。

 ◆重里さん その2人の作家は、最初にこちらがすすめると、はじめはいやいやかもしれないけど、黙っているうちに文庫本を買って、どんどん読み進める感じですね。

 2人とも言葉の真の意味で倫理的だと思うのです。村上さんもすごく倫理的な作家で、そこがすごくまっとうな部分なんです。「漱石以来の本物の文学者が、倫理というものを絶えず考えている」と言われます。「何がよくて何が悪いのか」ということを。

 ただそれはありきたりではなくて、悪のなかにいいものがあり、善なるもののなかに悪いものがあるという、倫理とは何かを追求しています。そうしたところが、現代の若い人にも響いている気がします。

 ◆十重田裕一さん 早稲田は文芸に関心のある方々が集まってくる雰囲気があります。まさに近代文学の祖と言われた坪内逍遥がいて、その後脈々と村上春樹さんまで続いています。その後も、小川洋子さんや多和田葉子さんも早稲田で学びました。文学、文芸に関心がある方が集まって、そこですぐれた表現者になる人が多く、学生たちもその雰囲気を楽しんでいる。

 文学部だけでなくほかの学部の人たちも文芸に関心を持ち、作家も文学部出身だけではありません。文化全体に幅広く関心がある方々が各学部にいて、学生たちが横断的に交流しています。そこがいいところかもしれません。文学だけでなく音楽もそうです。早稲田オーケストラがあり、グリークラブがあり、文化の潮、文化に関心のある方々が集う場になっています。

「入り口」の多い作家

 ――学生にはどういう本をすすめますか。

 ◆十重田さん いろいろです。春樹さんの本でも、例えば音楽に関心のある人には小澤征爾さん(指揮者)との対談とか。そこから春樹さんにふれる人もいる。心理学に関心のある学生には、河合隼雄さん(心理学者)との本があります。

 早稲田はスポ…

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今沢真

経済プレミア編集長

1983年毎日新聞入社。89年経済部。日銀・財研キャップ、副部長を経て論説委員(財政担当)。15年経済プレミア創刊編集長。19年から同編集部。22年4月に再び編集長に。16年に出版した「東芝 不正会計 底なしの闇」(毎日新聞出版)がビジネス部門ベストセラーに。ほかに「東芝 終わりなき危機」など。16~18年度城西大非常勤講師。