海外特派員リポート

米国債務めぐり浮上する奇策「1兆ドル硬貨」とは

中井正裕・北米総局特派員(ワシントン)
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米財務省は議会に債務上限問題を早急に解決するよう訴えている=米ワシントンの財務省で2021年9月20日、中井正裕撮影
米財務省は議会に債務上限問題を早急に解決するよう訴えている=米ワシントンの財務省で2021年9月20日、中井正裕撮影

 米国債の利払いが滞る債務不履行(デフォルト)まであと数日――。米連邦政府の借金総額を制限する「債務上限」を巡り、米議会で相変わらず与野党のチキンゲーム(我慢比べ)が繰り広げられている。追い詰められたバイデン政権内では「1兆ドル硬貨の発行」という奇策まで浮上する始末だ。

 聞き慣れない「1兆ドル硬貨」とは何か。経済大国である米国で、なぜこのような狂騒曲が繰り返されるのだろうか。

慢性的な財政赤字

 Kick the can down the road(キック・ザ・カン・ダウン・ザ・ロード)――。直訳すれば「路上へ缶を蹴れ」だが、「問題の先送り」という意味で使われる。米議会では、債務上限問題が再燃するたび、このフレーズが繰り返される。そしては缶は回収されず、少し先の路上へと蹴り飛ばされる。

 米国では1917年に成立した法律で、連邦政府が国債の発行などで借金できる上限を定めている。そもそもは第一次世界大戦の戦費を野放図に拡大しないことが目的だった。米政府は慢性的な財政赤字のため、借金の総額はすぐに上限に達し、議会が60年以降に行った上限引き上げや凍結(債務上限の一時停止)は計79回に上る。

 そもそも借金が増える予算を編成し、成立させたのは議会なので、債務上限を引き上げるか凍結しなければ、「議会が認めた借金を、議会が禁止する」という矛盾が起きる。このため、債務上限の引き上げや凍結は、ほとんどが超党派の合意で行われてきた。

 しかし、近年は与野党対立が激しくなり、政府の手元資金が尽きてデフォルトが起きる寸前まで問題がこじれるようになった。

 直近では10月14日、債務上限を約29兆ドル(約3280兆円)に引き上げ、政府が12月3日までの必要な資金を調達することができる法律が成立した。

 米政府の債務上限は2019年から今年7月末まで2年間凍結されていたが、8月1日に適用が復活。イエレン財務長官が「いつデフォルトが起きてもおかしくない」と警告するなか、与野党が土壇場で妥協し、問題を2カ月足らず先送りしたのだ。

与野党の主張と思惑

 与野党はなぜこのようなばかげたことを繰り返すのか。

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中井正裕

北米総局特派員(ワシントン)

1975年京都府生まれ。立命館大学法学部卒。2000年毎日新聞入社。岐阜支局、中部報道センターを経て、09年から経済部で電力改革、貿易交渉、日銀などを取材。政治部にも在籍し、首相官邸、自民党などを担当した。18年10月から現職。