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中国が越える「三つの山」不動産・教育に次ぐ大改革は

趙瑋琳・伊藤忠総研主任研究員
中国・北京中心部の高層ビル街。付近では地下街の建設工事が進む=2021年11月2日、小倉祥徳撮影
中国・北京中心部の高層ビル街。付近では地下街の建設工事が進む=2021年11月2日、小倉祥徳撮影

 中国人にとって、大きな三つの山を意味する「三座大山」は、かつて中国の民衆を苦しめた封建主義、帝国主義、官僚資本主義の三つを指す言葉として知られている。

 この熟語は今世紀に入り、新たな意味を示す言葉に変わった。新「三座大山」とは教育、医療、不動産だ。

 今日の中国社会で、教育の格差や医療リソースの不足、不動産の高騰は、社会の不満や結婚および出産意欲の低下などにつながっている。ところが、これまでは既得権益や経済成長への配慮など、さまざまな抵抗から改革が難しい岩盤分野とみられてきた。

不動産関連の規制強化

 しかし、ここに来て、中国政府は新「三座大山」を本気で改革しようとしている。

 まずは不動産だ。政府は2016年前後から「住宅は住むもので投機の対象ではない」との方針を掲げ、不動産関連の規制強化を始めた。

 20年8月には不動産への融資規制になる「三条紅線(三つのレッドライン)」を設定した。その対応に後れを取ったことが、中国の不動産大手、恒大集団の経営危機を招いた一因になっている。

 さらに21年10月には固定資産税の試験導入も公布した。政府は今後とも不動産業界に対する規制の手を緩めることはないだろう。

 政府は教育に関しても、児童・生徒の学校での宿題と塾など校外学習の二つの負担を減らす「双減政策」を打ち出し、中国版ゆとり教育にシフトしようとしている。

 双減政策では教育格差の是正を理由に、学習塾などに突然ストップがかけられ、教育関連ビジネスは大打撃を受けている。

医療は「改革ボーナス」

 一方、不動産や教育とは異なり、医療に関しては、いわゆる李克強首相が明言した「改革ボーナス」が得られる分野だ。中国では…

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伊藤忠総研主任研究員

 趙瑋琳(ちょう・いーりん)。1979年、中国瀋陽市生まれ。2002年に来日。08年東工大院社会理工学研究科修了、博士号取得。早大商学学術院総合研究所、富士通総研を経て19年9月から現職。専門は中国経済、デジタルイノベーションと社会・経済への影響など。プラットフォーマーやテックベンチャーなど先端企業に詳しい。早大商学部非常勤講師も務め、論文執筆・講演多数。近著に「チャイナテック 中国デジタル革命の衝撃」(東洋経済新報社)。