
東京大学で起業と言えば、まず名前が挙がるのはAI(人工知能)研究の第一人者である松尾豊教授率いる「松尾研究室」(松尾研)だ。ここから飛び出したニュース配信「グノシー」やソフトウエア開発「パークシャテクノロジー」が株式上場を果たし、これに続こうと多くの学生が起業を目指す循環が生まれつつある。研究室としても起業への挑戦を推奨している。松尾教授の考える「起業論」を聞いた。
大企業に行った時点で「負け確定」
――松尾研では、起業する人が次々に生まれる循環が起こっています。この要因は何でしょうか。
◆松尾教授 一番大事なのは成功例が身近にいることです。松尾研からグノシーやパークシャテクノロジーが上場したことが励みになり、自分もやってみたいと思う要因になります。
かつては、みんなでシリコンバレーに行ったり、僕自身もスタートアップ企業を作ってみたりしていましたし、研究室で企業との共同研究で資金を獲得していくなど、起業が生まれる土壌になるようなものはあった。しかし、一番大事なのは身近に成功例があることだと思います。
――どういうことですか?
◆例えば、自分の会社に社内ベンチャーの募集制度があって、優勝すれば賞金が100万円もらえ、会社が2000万円を出すので起業できるとなれば、それなりに応募する人はいるでしょう。一方で、自分の同僚や後輩が会社を辞めて起業し、株式上場を果たし新聞に載っているのを見るのとではどちらが刺激があるでしょうか。
上場を果たした起業家は、社会的ステータスは高く、経済的にも何十億円、何百億円の資産を得ることになる。資産という点でみると、いくら真面目に働いたとしても、その同僚や後輩には一生追いつけない。そうなってしまうと、いわば大企業に行くだけで負け確定なわけです。そうした悔しさ、あるいは「あの人ができたなら自分でも…
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松岡大地
外信部記者
1989年、岩手県生まれ。青山学院大卒。地元のテレビ局勤務を経て、2014年9月、毎日新聞社入社。静岡支局、東京経済部を経て、22年4月から外信部。