
入山章栄・早稲田大大学院教授の連載「未来を拓(ひら)く経営理論」は、世界の経営学の知見をビジネスパーソンが実践できる形で分かりやすく紹介していきます。今回は、毛織物の企画・生産を手掛ける三星毛糸(岐阜県羽島市)の5代目経営者、岩田真吾社長(40)の取り組みを通じて、製品の「情緒的価値」について考えていきます。情緒的価値とは、品質や価格といった「機能的価値」とは異なり、その製品の背後にあるストーリーや人々とのつながりのこと。岩田さんが情緒的価値に着目したのは、なぜなのか。詳しく見ていきます。
入山章栄教授の「未来を拓く経営理論」
繊維・アパレルはかねて、サプライチェーンが非常に分断されている業界のひとつと言われてきました。普段、消費者が接するのは、最終製品を販売する「ブランド」だけですが、その製品ができるまでには縫製、生地製造、紡績、糸の原料調達といった多くの会社が関わっていることが少なくありません。
その結果、業界全体として効率が悪くなるのに加えて、ある製品の原料が、いつ、どこで、誰によって、どのように作られたのか、消費者はもちろんのこと、その製品を売る「ブランド」さえ把握しきれないという問題を抱えています。
カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが、強制労働など人権問題の指摘される中国・新疆ウイグル自治区の綿を使用していると疑われ、米国の税関で製品の輸入を差し止められたり、欧州の当局が捜査に乗り出したりといった混乱に巻き込まれたのは、記憶に新しいところです。トレーサビリティー(追跡可能性)の低さという業界の抱える問題が、こうした形で顕在化したわけです。
自分の着ている服が、世界の誰かの苦難の上に作られたものだとしたら、そのブランドを買い続けたいと思うでしょうか。こうした「情緒的価値」は、繊維・アパレル業界だけでなく、あらゆる業界で…
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