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没後40年「向田邦子の手料理」改めて魅力を考えた

山田道子・元サンデー毎日編集長
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作家の向田邦子さん=1980年撮影
作家の向田邦子さん=1980年撮影

 「私、『手料理』で実際に作った料理はあったかなと思って、今回、読み返してみたら……実は一つもなかったんです」

 今年は作家の向田邦子さんの没後40年。いろいろな雑誌で特集企画がなされたり、作品抄本が出版されたりした。

 「手料理」とはベストセラー「向田邦子の手料理」(講談社)のことだ。月刊小説誌「オール読物」(文芸春秋)8月号は「永遠の向田邦子」を特集。「向田邦子の『深層』」と題するテーマで、エッセイストの平松洋子さんと対談したエッセイストの酒井順子さんが、「向田邦子の手料理」について発した冒頭の言葉にハッとした。平松さんも「私自身もとくに作った料理がなかったんです」と応じた。

内面や日常を雄弁に語る

 私も「向田邦子の手料理」は、愛読書の一つだが、作ったのは、好きな食材がそろっている「ザーサイ・セロリ・きくらげのいため物」くらい。

 ザーサイの塩抜き加減が大事で、あまり長く水につけておくと、とんと間の抜けたものになるという向田さんのアドバイスが実に的確だったが、言われてみればレシピ本としては読んでいなかった。

 平松さんは「始末な料理とか昭和の味というものではなく、料理自体が向田さんの日常や内面を雄弁に物語っている」「何でもない小さな料理から人物の深いところに降りてゆくような……。それは創作のあり方にも通底する、すごく大事な向田さんの本質かもしれないと思うんです」と考察している。

 私は、この本は「手料理」と銘打っているが「家庭料理」ではないところがミソだと思う。「ザーサイ……」しかり、載っている料理は独身女性が酒を楽しむため、自宅に人を招いてもてなすための料理なのだ。

 そこから「向田さんの内面や日常」、要するに仕事をしながら一人で生きている女性の生活があふれていて心をつかまれた。

親子を結ぶ料理と器

 同じように読み返すのは平松さんの食に関する本だ。例えば、「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」を受賞した「買えない味」…

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山田道子

元サンデー毎日編集長

1961年東京都生まれ。85年毎日新聞社入社。社会部、政治部、川崎支局長などを経て、2008年に総合週刊誌では日本で最も歴史のあるサンデー毎日の編集長に就任。総合週刊誌では初の女性編集長を3年半務めた。その後、夕刊編集部長、世論調査室長、紙面審査委員。19年9月退社。