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香川の地場スーパー跡取りが「10足のわらじ」を履く理由

櫻田弘文・クエストリー代表取締役
「ウルトラ今川」代表の今川宗一郎さんの似顔絵がロゴマークの「宗一郎珈琲」=筆者提供
「ウルトラ今川」代表の今川宗一郎さんの似顔絵がロゴマークの「宗一郎珈琲」=筆者提供

 瀬戸内海に面する香川県西部の三豊市仁尾(にお)町には「日本のウユニ塩湖」といわれる「父母ケ浜(ちちぶがはま)」がある。仁尾町は人口約5000人の小さな港町だ。人口減少と高齢化が年々進む中、「町を進化させて地域の人の挑戦したいという気持ちも引き出そう」との思いを秘める若手経営者がいる。今川宗一郎さん(35)だ。本業は、家業の地元スーパーの跡取り経営者だが、他に10足のわらじを履く、その取り組みを紹介する。

急激な観光地化が心配

 父母ケ浜は近年、南米ボリビアのウユニ塩湖の水鏡のような“映える”写真が撮れると話題になり、新型コロナウイルス禍の前は年間45万人(推計)が訪れる観光スポットとなった。地元生まれの今川さんは、2019年10月に父母ケ浜でキッチンカー型のコーヒー店「宗一郎珈琲」を開業した。

 今川さんは「町の受け入れ能力を超える急激な観光地化が心配でした」と話す。地域の人と観光客が心地よくつながり、町をよくしていく拠点になることを目指している。

 その工夫の表れが、赤、青、緑、白、黒のマグカップから客が1色を選ぶことだ。たとえば赤には「もっときれいな浜になってほしい」、黒には「夜を楽しむ場所がほしい」といった意味があり、客は地域のことを考え、気軽に意見することができる。選ばれたカップの数を集計し、浜を管理する団体に伝えて環境改善などの活動に反映している。

 21年4月には、仁尾町のかつての商店街に「宗一郎豆腐」を開業した。日中は豆腐店、夜は飲食店と二つの顔を持ち、世代を超えて地元の人が集う。夜に飲食できる店を作るのも目的の一つで、豆腐作りのノウハウは今川さんが修業して一から習得…

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クエストリー代表取締役

1955年山梨県生まれ。日本大学卒業後、78年に販売促進の企画・制作会社に入社。2001年、クエストリーを設立して独立。中小企業経営者向けの「クエストリー・ブランディングクラブ」を主宰する他、数多くの専門店や飲食店のブランディングを実践的に指導している。