
入山章栄・早稲田大大学院教授の連載「未来を拓(ひら)く経営理論」は、世界の経営学の知見をビジネスパーソンが実践できる形で分かりやすく紹介していきます。今回取り上げるのは、日本酒の伝統的な製法を復活させ、「No.6」(ナンバーシックス)など個性あふれるお酒を次々に生み出す老舗酒蔵「新政酒造」(秋田市)の佐藤祐輔社長(47)です。今でこそ出す酒、出す酒が「入手困難」と言われるほどの人気を博す新政酒造ですが、15年ほど前までは安価なパック酒のメーカーでした。この大逆転を可能にした元ジャーナリスト経営者、佐藤さんの経営手法に迫ります。
入山章栄の「未来を拓く経営理論」
江戸時代末期の嘉永5(1852)年創業の新政酒造は、もともと全国屈指の名門酒蔵でした。昭和初期には、全国清酒品評会の優秀賞を3年連続で受賞。新政が発見した「6号酵母」は全国の酒蔵で使われ、当時の銘醸地地図を塗り替えるほどのインパクトをもたらしました。
佐藤さんは、そんな名門酒蔵の「8代目」と呼ばれて育ちましたが、本人には家業を継ぐつもりはなく、東京大文学部に進んで英米文学を専攻。日本酒はあまり好きではなく、むしろ「罰ゲームの酒」という印象だったそうです。
1999年の大学卒業に伴いテレビ局から内定を得たものの、入社前に辞退しました。本当は作家になりたくて「人生経験のため」に就職活動をしましたが、長く勤める意思はなく、入社すればかえって「迷惑をかける」と思ったからでした。
海外放浪の旅から戻った後は葬儀会社、郵便局員など、さまざまな仕事を経験します。郵便局員時代には、東京・池袋の歓楽街の配達を受け持ち、分厚い現金書留を持ち歩くうちにトラブルに巻き込まれかけるなど、世間の「裏側」を垣間見ます。名門酒蔵の子息としては、かなりぶっ飛んだ…
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