元日銀理事が語る「経済の急所」

今が好機?「異次元緩和の出口」でも終結は30年後か

山本謙三・元日銀理事、金融経済イニシアティブ代表
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衆院予算委員会で質問に答える日銀の黒田東彦総裁=2021年12月15日、竹内幹撮影
衆院予算委員会で質問に答える日銀の黒田東彦総裁=2021年12月15日、竹内幹撮影

異次元緩和の出口(1)

 昨年12月、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、量的緩和の縮小ペースを速める決定を行うとともに、本年中に3回程度の利上げの可能性を示唆した。英国の中央銀行イングランド銀行も、3年4カ月ぶりに利上げを行った。

 一方、日本銀行は異次元緩和の継続を表明している。4月には実に10年目に入る。この間、多くの副作用を生んできた。もともと2年で終えるはずの政策だった。物価目標が達成されないからといって、いつまでもこのまま続けていい政策ではない。

「ひそかな緩和縮小」の見方は先走り

 日銀も、副作用を意識してこなかったわけではない。昨年1年間は、国債と指数連動型上場投資信託(ETF)の買い入れを劇的に減らした。市場にはこれを「ひそかな量的緩和の縮小(ステルステーパリング)」と呼び、「金融緩和の修正を始めている」との見方がある。

 しかし、この見方は先走りだろう。FRBやイングランド銀行のように、次のステップとしての利上げを示唆するものではないからだ。

 今のままでは、当分の間国債とETFの保有残高をほぼ同水準で維持したあと、再び景気の下降局面や株価の下落局面が訪れれば、大量買い入れを再開する可能性が十分に残る。「ひそやか」な対応だけでは、異次元緩和のワナから逃れるのは難しい。

 異次元緩和は副作用が多い。将来の高インフレのリスクはもちろん、現時点でも、企業の新陳代謝を遅らせ、経済全体の生産性向上を妨げる。金融機関の収益も圧迫している。財政規律の弛緩(しかん)も招き、「日銀はいわば政府の子会社」と言ってはばからない政治家が増えた。

異次元「四つの柱」どう解除

 異次元緩和は四つの柱から成る。マイナスの短期金利、長期金利のゼロ%程度への抑制、国債購入を軸とする資金の大量供給、ETFの購入――である。

 異次元緩和が真に問題を引き起こすのは、、、の柱、すなわち国債、ETFの大量購入と長期金利の超低水準への張り付けだ。これらこそが「異次元」の緩和と呼ばれるゆえんであり、多くの副作用を生む要因となっている。長期金利ゼロや株価の下支えは都合のよい景気対策にみえるが、長く続ければ、市場に備わる「企業を選別する機能」を損ない、日本経済の活力を奪う。

 着手すべきは日銀が抱え込んだ国債やETFを市場に戻し、市場機能を回復させることだ。ただし、「市場への戻し」が金利や株価に不測の影響を与えないよう、配慮は必要となる。慎重なステップを踏めば、完了まで10年、20年、場合によっては30年以上かかる。それだけ、これまでの異次元緩和は市場機能をゆがめてきたということである。

出口に向かうタイミング

 物価が上昇気配を示し、株価が高値圏にある今を逃せば、着手する機会はなかなか訪れそうにない。とりあえず短期的な景気対策とは切り離し、「異次元」を構成する三つの柱の解除を急ぐ…

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山本謙三

元日銀理事、金融経済イニシアティブ代表

 1954年福岡県生まれ。76年東大教養学部を卒業し、日銀入行。企画局参事役、ニューヨーク事務所長、金融機構局長、理事などを歴任し、金融政策や金融システム安定化などを担当する。2012年に退職し、18年までNTTデータ経営研究所会長。現在は自身で設立したコンサルタント会社、オフィス金融経済イニシアティブ代表