人工知能(AI)や自動化の推進が語られる際にセットで言及されるのが、機械に仕事が奪われるといった雇用への影響だ。新たな技術の導入に懸念を示す動きは最近、「ネオ・ラッダイト(Luddite)運動」などと呼ばれる。
「ラッダイト運動」とは、19世紀初頭の産業革命期の英国で起きた「労働者による機械打ち壊し運動」のことだ。歴史の授業で耳にしたことはあるものの、ラッダイトとは何なのか。英国の元祖ラッダイト運動の現場を訪ね、歴史と今を考えた。
真夜中に工場を奇襲
ロンドンから電車と車を乗り継いで約2時間半。イングランド北部ウェストヨークシャー州中部の小さな住宅街に、大きな道具を頭上に掲げた男性の銅像が建つ。男性の脇には子どもの姿もある。
「世界で唯一のラッダイトの銅像です。男性が手に持っているのは、織った布の表面を刈り取る道具です。これで表面を整えることで織布の付加価値を高めていました」
地元の歴史・環境保護団体のエリカ・アメンデさん(69)が説明してくれた。ラッダイト運動の主な現場となったイングランド北部は英国の製造業の中心地として発展してきた。家内制の毛織物業で栄えたこの地域は、18世紀後半から19世紀にかけて起きた産業革命で、暮らしの変化を余儀なくされた。
機械化で特に打撃を受けたのが、道具を使った刈り取り工の仕事だった。アメンデさんは「仕事がなければ食べていけない。そこで労働者たちは機械を止めさせようと考え、秘密結社を作りました。彼らはラッダイトと呼ばれました」と説明してくれた。
この地域で最大規模のラッダイト運動は1812年4月。今もここに残る英国の居酒屋(パブ)の2階で秘密裏に作戦を練ったうえで、100人を超えるラッダイトたちが真夜中に、機械を導入した工場を奇襲した。
しかし、ラッダイトの2人が死亡したほか、十数人が絞首刑になった。そのほかにも多くの人がオーストラリアに…
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