元日銀理事が語る「経済の急所」

日銀保有の巨額株式「1日30億円売却」で解消まで71年

山本謙三・元日銀理事、金融経済イニシアティブ代表
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日本銀行旧館
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異次元緩和の出口(3)

 異次元緩和の「出口」を考える上で、最も悩ましいのは指数連動型上場投資信託(ETF)の処理だ。2021年9月末時点の日本銀行の保有額は、簿価36兆円、時価52兆円に達した。すでに日本株の最大株主である。

 株式市場は、株価の変動を通じて、企業の新陳代謝を促す機能を果たす。日銀のETF買いは、組み入れ銘柄を事実上一律買い上げるものであり、新陳代謝をむしろ阻害する。大幅な株価の下落局面では、日銀に債務超過のリスクも発生する。

 主要国の中央銀行が、金融政策の手段として株式やETFを購入してこなかったのは、これらのリスクを意識してのことだ。

 市場の機能回復には、日銀がETFを「市場に戻すこと」が欠かせない。株価の形成には心理的な要素が働くため、売却には慎重な配慮が必要となるが、だからといって、日銀内部に塩漬けにしてよいものではない。

繰り返された増額購入

 13年4月、日銀は異次元緩和の開始とともに、ETF買いの大幅増額に踏み切った。「施策の逐次投入は行わず、必要な施策をすべて講じた」というのが、当初の説明だった。しかし、その後も増額が繰り返され、逐次投入の連続となった。

 買い入れの手法にも特徴があった。「市場の不安心理に働きかける」というのが日銀の公式見解だが、安値圏、高値圏にかかわらず、株価が少しでも下押しすれば、ことごとく買い向かった。この結果、市場関係者は「株価下支えのための介入」と受け止めた。日銀がETF買いを事実上停止したのは、21年に入ってからのことである。

売却完了までの年数は?

 市場を極力かく乱せずに、保有ETFを「市場に戻す」にはどのような方法があるか。よく「高値圏で売り、安値圏で売り控える」手法が唱えられるが、高値、安値の判断は難しい。市場の憶測を呼びやすく、むしろ早期に売却停止に追い込まれやすい。

 結局、一定額をコンスタントに市場に売り戻す方法が、恣意(しい)性を排除でき、市場への影響を最小限にとどめられるだろう。株価への影響は、当初公表の一時点でほとんどが吸収されるはずだ。

 ここでは、東証1部1日当たり売買代金の0.1%、0.2%、0.5%相当額を毎営業日淡々と売却する3ケースを考えてみよう。連日の売却となるので、1%以上は荷が重すぎるだろう。

 21年度上期平均に当てはめれば、それぞれ1日約30億円、約60億円、約150億円となる。試算では、保有残高52兆円(時価)を全額処理するのに、約71年、約36年、約14年かかる。途方もない年数だが、それだけ短期間のうちに巨額を購入してきたということである。

 なお、日銀の債務超過…

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山本謙三

元日銀理事、金融経済イニシアティブ代表

 1954年福岡県生まれ。76年東大教養学部を卒業し、日銀入行。企画局参事役、ニューヨーク事務所長、金融機構局長、理事などを歴任し、金融政策や金融システム安定化などを担当する。2012年に退職し、18年までNTTデータ経営研究所会長。現在は自身で設立したコンサルタント会社、オフィス金融経済イニシアティブ代表