
岸田文雄首相が政策の目玉として「新しい資本主義」を掲げた。この政策を経済学の歴史の視点から捉えるとどう見えるのか。経済学史が専門の根井雅弘・京都大学教授に聞いた。【聞き手は経済プレミア編集部・平野純一】
――岸田文雄首相が提唱した「新しい資本主義」にどのような感想を持ちましたか。
◆根井雅弘さん 新政権が生まれれば、政策に「新しい」を付けたくなるものです。文芸春秋(2022年2月号)の岸田首相の寄稿「私が目指す『新しい資本主義』のグランドデザイン」を読みましたが、政策的に何か新しいものがあるかといえば、そうではありません。
ただ、経済政策は1980年代のアメリカのレーガン政権以降、新自由主義的なものが世界に広がり、安倍晋三元首相、菅義偉前首相も基本的にこの考え方でした。しかし、岸田首相はそれを明確に否定しています。その意欲は評価していいと思います。問題は掲げたことが実践できるかで、そこは見守りたい。
アメリカでもケネディ大統領の政策は「ニューエコノミクス」と呼ばれました。「ニュー」と言っても何かが新しいものではなく、理論的支柱は経済学者のポール・サミュエルソンで、ケインズ経済学に新古典派経済学を融合した「新古典派総合」と呼ばれる経済学を前面に押し出しました。ケインズ的な財政金融政策で高い成長を実現しました。
政府のインフラ投資が先
――岸田首相は分配を重視し、中間層の所得増を目指していますが、それで成長につながりますか。
◆景気が低迷している時に、ただ中間層の賃金を上げても、それだけではうまくいかないと思います。全体のパイが拡大していない時に無理やり分配政策だけをやっても途…
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平野純一
経済プレミア編集部
1962年生まれ。87年毎日新聞社入社。盛岡支局、サンデー毎日編集部、経済部、エコノミスト編集部などを経て2016年から現職。金融、為替、証券、マクロ経済などを中心に取材。